第3話 根っこであるが根無し草

ゴブリンが出ると聞いてやって来た冒険者のニールとアイは、目指す討伐対象が既に全滅しているのに驚いていたけれど、私が冒険者になるべく街に向かっていることを話すと街の案内を申し出てくれた。

私が代わりに依頼クエストを達成した形になったのでそのお礼もかねて、とのことなので、有難く受けることにしよう。


金髪の少年ニールは、まだ幼い雰囲気も残っているが、体つきはしっかりしており持っている槍も手に馴染んでいる。小さな頃から猟師の親に付いて山林を駆け回っていたのだという。

アイもニールと同じくらいの年頃の少女で、こちらは魔法の才能を買われて何年も商隊に同行して世界を旅してきたらしい。

さて、2人ともこうして自分のことを話してくれている訳だけれど、私については突っ込んで聞いてくることはしない。これは別に興味が無いというわけではなく、分別が付いているということだろう。まだ出会って間もないが、良い人間と知り合いになれたと思う。

ここで私は一つの決断を下す。

「ニールさん、アイさん。」

私はフードを外して目を開く。

「私はマンドラゴラのマナ、よければ今後とも仲良くしてください。」


種族の違いが断絶を生んでいるというのは聞いていた。しかしそれがどれほどのものかはハッキリしていなかった。

なので2人には申し訳ないが、ここで試金石となってもらおう。ここまで好意的に交流してきた彼らの反応で、これからの身の振り方を考える材料とする。

もし2人の態度が豹変するようであれば、この街を離れて身を隠して生きていくことも考えなければ。

人間であれば心臓が高鳴るところだが、私はマンドラゴラなので心臓はない。代わりに普段髪から放出している水分量が跳ね上がる。


しかしそんな私の内心をよそに、ニールは私が差し出した手を躊躇無く握り返してきた。

樹人トレントですか!こちらこそよろしくお願いします!」

樹人トレントというのは知性を持って動き回る植物の総称である。小さなものでは種草人という身長数センチのものから、大きなものでは城ほどもある巨木まであり、マンドラゴラもその一種ではある。

かなり厳しい結果まで想定していただけに、この受け入れられっぷりには拍子抜けした。とはいえ喜ばしいことだ。これが個人の価値観によるものか一般的な感性によるものかは分からないが、少なくともこの2人が私を迫害することは無いようだ。

「そうだ、もし良かったら僕達のパーティに入りませんか?マナさんが組んでくれたら心強いです!」

そうニールが言う。

願っても無い申し出、しかしその申し出にストップをかけたのはアイだった。


「ごめんなさい、私もマナさんが一緒になってくれたらいいなって思うんですけど……実は仲間がもう一人いるんです。パーティにお誘いするのは、その人に会ってもらってからで良いですか?」

それはまあ当然のことである。その人にとっても、自分が知らないところで仲間が増えていたら複雑な気持ちになるだろう。

だが、その言葉に含まれる迷いが少し気になった。

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