第2話 滋養強壮、そして毒

ローブを着こんでフードを被れば、私は遠目には人間に見える。近付いても肌が浅黒くてザラザラしている程度にしか思われないはずだ。

しかし目だけは誤魔化せない。マンドラゴラのまぶたの下は瞳が無く、全面が黄緑色の目となっているのだ。

以前、親に連れられて1度だけ街に来たことがある。その時は「人間は亜人を排斥している、だからマンドラゴラであることは隠しなさい。」と言われていた。


そんなことを考えながら森を出て、もうすぐ街だといったところで、岩陰から出てきた何者かに周囲を取り囲まれる。

「モチモノ ヨコセ!」

私の周囲を囲んで威嚇してくるのは、4匹のゴブリン。街の近くだからと油断している人間を襲う追いはぎ、強盗、そんなところか。

「あんたたち、相手が人間じゃなくても襲うつもり?」

私はフードを外して目を開く。

ゴブリンもマンドラゴラと同じく亜人の一種である。人間と比べれば仲間意識もあるのではないか。そう思って正体を明かしてみたが、ゴブリンたちは一瞬びっくりしたものの「カンケイナイ!ヨコセ!」「ヨコセ!」と騒ぎ続けている。


で、あれば仕方が無い。

草絡めグラスタック!』

私が唱えた呪文と同時に、ゴブリンたちの足がガクンと引っ張られる。

足元の草が絡みつくだけの呪術だ、引っ張れば草は普通に抜ける。しかし、無いはずの抵抗が突然現れたとき、人は体のバランスが大きく崩れるのだ。

その隙に、目の前のゴブリンに対してナイフで切りつける。傷は浅いが、ゴブリンは大きな叫び声を上げて転がり始めた。

私のナイフには毒が塗ってある。傷から入り込めば――とにかくめちゃめちゃ痛いだけの毒だ、しかしそういうのが役立つ場面も多い。今もめちゃめちゃにのた打ち回っている仲間に気を取られて、ゴブリンたちは私への集中が削がれている。

その隙に1匹のゴブリンの首元にナイフを滑らせると、血が大量に吹き出す。毒は血で押し流され、身体には入らなかったようだが、この出血は普通に致命傷である。

これで2匹が戦闘不能、残る2匹は戦意喪失で既に背を向けて逃げ出していた。

そこに、針を1本ずつ投げて突き刺すと、刺されたゴブリンは2、3歩、足を進めてからそこに倒れ伏す。この針には細かい溝が掘ってあり、そこに薬品を含ませることができる。こちらはナイフのものとはまた異なる毒で、僅かでも体内に取り込まれれば、たちまち体が動かなくなるというもの。呼吸すら止める危険な毒だ。

見れば、最初に切りつけた1匹も痛みでショック死したようだ。


マンドラゴラの技能である毒と呪術。転生前の知識も生かして身につけたこれが、私の冒険者としての武器だ。それがちゃんと通用するようで一安心、といったところである。

針を回収したところで、「おーい!大丈夫かー!?」と声が聞こえてきた。

見ると街の方向から誰かが駆けてくる。

私はあわててフードで顔を隠した。

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