第17話闇医者? ヤブ医者?
「
お久しぶりです。リカコです」
『……。理加子が直接電話をしてくるなんて、よっぽどな事があったな』
「緊急度合いが分かっていいでしょ?」
三条橋の下、コンクリートの柱の基礎に腰を下ろしてリカコがにこりと微笑む。
足元ではカイリが手錠代わりのインシュロックをかけた黒スーツの身体検査をしている。
まぁ、大小取り揃えたナイフが出てくる事。
「この前はアコニチンのDNA鑑定ありがとう。今日本庁の鑑識で確認したんだけど、やっぱり合致したわね。
でね。ちょっと相談があるんだけど、その事がらみで犯人の身柄を引き取りに来てもらえないかしら?」
『例の黒スーツか?』
「ご明察」
以前公園で一戦交えた事はカイリ達が巽にも話している。
「しかも高富氏殺害の自供録音付き。」
『何⁉︎ あれはプロの仕業じゃないかって、本庁でも噂になってたやつだぞ。
……。見返りはなんだ?』
警戒した口調で聞いてくる。
「やだわ。巽さんにはいつもお世話になってるもの。検挙率を上げてもらいたいだけよ」
『今日は香絵と本庁に顔出したろ?』
「親子の会話がなされてるなんて、素敵ね」
『理加子』
たしなめるような巽の声に誤魔化すのは諦める。
「〈おじいさま〉にこの件からは完全に手を引くように言い渡されたの。なのに舌の根も乾かぬうちにこれじゃあね。
これが結構切実だったりするのだ。
『……。お前達が関わってない。なんて誤魔化し切れるとは思わないぞ』
「巽さんなら大丈夫よ。ありがとう。
陰で動くの得意だから、何かあったらお手伝いするわよ。声かけてね」
『お前達に頼むようじゃ、おしまいだよ』
重いため息をつく。
『みんな怪我は無かったのか?』
当然来ると分かっていた質問だけど。
「それはゴメン。
下の3人はドクターのところに行かせたの。みんな直ぐにどうって傷じゃないけど……」
『誰が一番重い?』
「……イチ。かな」
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「せんせー。なんかヤバそうなの来ましたよぉ~」
あからさまに
「ミーナさんひどぉい」
「香絵ちゃん新手のファッションセンスだね」
目を丸くしたミーナさんにジト目を返す。
「まぁね」
ここへの道すがらも、変な目で見られましたよ。
「うわっ。
ジュニア、なんだその腕は」
「痛い」
「当たり前だ。バカ。
ミーナちゃん縫合セット出しといて。
香絵は?」
奥から顔を出したのは無精ひげのボサボサ頭。
白衣の下のヨレヨレシャツ。
まさに闇医者。イヤ、ヤブ医者か?
「胸元さっくり」
ミーナさんに連れられて診察室に入りがてらジュニアが余計な一言。
「お。いいとこ切られたな?
見せてみろ」
「殴るわよ」
「医療行為だろぉ?
元気そうだな。まぁ、なんにせよジュニアの後だ。
イチは?」
「俺は付き添い」
「……ふーん。
請求はいつも通り、巽にツケとくからな」
イチの顔をジィッと見た瞳が診察室へと移動していく。
「はーい」
待合室の古ぼけたベンチに腰を下ろし一息つく。
隣にイチが座る気配がして。
「?
イチ。どした?」
妙な違和感に言葉が口をつく。
「あ?」
あれ? 気のせい?
「なんか……」
イチの顔をジィッと見つめる。
なんだろう? おかしい。探せ。
グィッと顔をイチに近づける。
頭で警報が鳴ってる。
イチの顔。瞳。唇。
「カエ?」
「イチ」
「何見つめあってるの?」
唐突にジュニアの声。
「うわっ。イヤ、違うよっ。
イチ、なんか変じゃない?」
かぁぁっと赤面するのが分かる。
「えぇ?」
怪訝な顔で覗き込むジュニアの横から、ドクターがスッと割り込んで来る。
ポグッッ!
何の前置きもなく、イチに腹パンチ。
「え? なぜ今腹パン?」
あたしがドクターを見上げる横でイチが苦しそうに身体を2つに折る。
「えっ。何?
そんな強烈な感じじゃ無かったよっ?
イチっ?」
「ほら、腹出せ」
上から見下ろすドクターをイチが凶悪な形相で睨み返す。
「悪い顔だなぁ。
お医者様を誤魔化せると思うなよ」
横からあたしがTシャツをめくる。
お腹から脇腹にかけてが真っ青になっている。
「うわぁっ、ヒドッ。
いつやられたのよっ!」
「ったく、お前らはナイフ持ったムエタイ選手とフォークダンスでも踊ってたのか?
ミーナちゃぁん、エコー検査の用意しておいてぇ」
「は~い」
奥の処置室から返事が返ってくる。
「大丈夫だよ。ちょっとアザになっただけだろう」
額に脂汗が浮く。
「腹部外傷。内臓出血してたら今日は入院だ」
ぴこぴこっ。
緊迫した中にLINEの着信音。
「リカコさんだ。
イチは大丈夫だった?
だって。気づいてたんだ。リカコさん」
チラリとイチを見る。
「理加子?
ああ。もう1人スカした女がいたっけなぁ。滅多に病院に顔出さないヤツ。
とりあえず検査だ、行くぞ」
ドクターが、イチの襟を掴んで連行していく。
「カエ」
空いた席にジュニアが腰を下ろす。
「そんな悲しそうな顔しないの。大丈夫だよ」
引き寄せてくれたあたしの頭が、コツンとジュニアの肩にもたれた。
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