ホワイトデーもくりすます

「ハッピーホワイトデー!」

「おや」

 差し出したそれをくりすますが見る。

「これは」

「うどんだ」

「そうですね」

「俺のこだわりポイントわかった?」

「油揚げがハート型になっているのがいつもと違いますね、それと、この麺は手作りですね。出汁も鰹節と昆布から取っている……こだわり、ですか」

「そうなんだよ。お礼がしたくてな……」

「お礼」

「チョコレートの」

「なるほど。お礼ですか。お礼……プレゼント返し、ということですね」

「三倍返しとはいかなかったけど、その分気持ちは込めた、と思う」

「クリスマスプレゼントは三倍返しなんてしなくてもいいんですよ」

「ふふ……知ってるよ」

「あれは気持ちなので」

「気持ち……そうか、クリスマスプレゼントは気持ち……」

 なぜかしみじみと反芻してしまう。こんな春の日にクリスマスプレゼントは気持ち、とか言われるシチュエーションってどんなのだよとか思う気持ちもあるが、それ以上に、あれは気持ちだったのか、ということが大発見であるかのように思われてならない。

「気持ちなんだな」

「ええ」

「それは嬉しいな。気持ちを込めたチョコか……」

「うどんでは?」

「俺が送ったのはうどんだが、つまりお前は気持ちを込めたチョコを俺にくれたってことに……って口に出すとなんか照れるな」

「照れなくてもいいんですよ。僕たちは友達なので」

「はは、そうだな」

 ふ、と、顔がなんだかだるくなっていて、口角が上がっていることに気付く。

 表情を動かす筋肉、も使ってなかったから疲れるんだな。

 それほど使ったってことか。

 それはなんだか嬉しいような、別になんてことでもないような、

 よくわからない気持ちだった。

「さ、うどん食べろよ。冷めちゃうぜ」

「ありがとうございます」

 くりすますはしかし、ととと、と歩いて戸棚まで行く。

「ん? 何してるんだ?」

 丼と箸を一つずつ持ってテーブルに戻り、

「あなたも一緒に食べるんですよ」

「俺? 俺はいいよ」

「一緒に食べた方がおいしいですよ」

「一緒に食べた方がおいしい? それはくりすます、お前もなのか?」

「さあ、僕は概念なのでそういうのはわかりませんが、たぶん、そうなんじゃないでしょうか」

「そうか。……じゃあ、一緒に食べようか」

「ええ」

 そして俺とくりすますはうどんを一緒に食べた。

 外では風が吹いていて。

 春の夜だった。

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日常ウィズくりすます Wkumo @Wkumo

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