第3話 朝食

「コケコッコー」「コケコケコッコー」「コケコケコッコーコケ」「コケコケコッコー」

 早朝からニワトリたちの大合唱が。庭から聞こえてくる。

 

「ん、朝か……」


 ウルルスはソファーから身を起こし強張った身体を動かす。ティアの好感度を上げないとそのうち仕事に影響が出てきてしまうかもしれない、と二日酔い気味の頭で考える。今は毛布が要らない季節だが奴隷にベットを譲って凍死なんて笑い話にもならない。空き部屋の掃除を本格的にしなければなぁと思いながら手につかない。


 そのティアは朝に弱くてニワトリのやかましい鳴き声でも起きない。朝食などの朝の仕事はウルルスの役割だった。


 まだ薄暗い外に出てしばし歩く、井戸から水を汲み柄杓で一口飲む。二日酔いの時の冷たい水ほど美味い水は無いな、とぼんやり思いながら木製の手桶に水を移す。二つの木桶を家に運び、台所の水瓶に移すという作業を何回かこなし、今日の朝食は何にしようか考える。

 沢山ニワトリを飼っているが毎日卵を産んでくれる訳では無いので、薄く切った燻製肉とサラダに保存が効く黒パンという質素な食事の時はティアの機嫌が若干悪くなる。焼き立ての白パンとプレーンオムレツとサラダにスープが付くとすこぶる機嫌が良くなる。


「俺は黒パンの方が好きなんだがなぁ……」


 誰に言うでもなく呟くと町のパン屋まで買い物に行く。これも好感度を上げる為だと思うと少しも苦ではない、財布には痛いが必要経費だと割り切る。




「ウルルスさん、いつも早いですね」


 若いパン屋の女主人に声を掛けられた。


「うちで寝てるお姫様の為ですから。ここのパンがお気に入りなんですよ」


 ウルルスはティアの事を外ではお姫様と呼称している。奴隷の為に買い物に足を運ぶご主人様など世間では存在しないからだ。


「うふふ、嬉しい事を言ってくれますね。試作品が出来たのでぜひ持っていって下さい」

「嬉しい申し出なんですが、あいにくお代以上に返せるものが……」

「お姫様の感想で構いませんよ」

「そうですか、なら遠慮なく頂いていきます」

「また、いらしてくださいね」


 代金を払うと家路を急ぐ、万が一ティアが起きていた場合、空腹で機嫌が悪いからだ。いちいち奴隷の機嫌を気にするご主人様もこの世界では存在しないのだが、ウルルスは少し変わっていた。


「あとはニワトリが卵を産んでくれれば最高なんだが……」


 ニワトリは十五匹ほど飼っているが、その内に二匹はオスだ。最初は六羽の番だった。順調に増えているので飼い方は間違ってないはずとウルルスは思っていた。

 ニワトリ泥棒も出ていない、出たらその泥棒の命はないだろうが、


「ニワトリを飼う為に町の外れの家を買ったのは良かったのか、悪かったのか…。判断に迷うなぁ」


 庭を調べて卵を三つ手に入れると自分の判断は間違いじゃないなと、少し思う。


「ご主人様、おはようございます……」


 ナイトキャップに寝間着姿の無防備なティアが目をこすりながら挨拶する。

 その姿に一瞬目を奪われるも平静を装い、


「おはよう、ティア」

「……ご主人様は朝が強くて羨ましいです」

「ニワトリに起こされてるだけだよ」(ここで夜の方も強いぞ、とか言ったらセクハラ発言だな)

「……丸焼きを所望します」

「うるさいからって食べようとするな、あと丸焼きより美味い食べ方があるので却下だ」

「……どんな食べ方ですか?」

「乞食鶏っていってな、ニワトリを泥で包んで土に埋めて、その上で焚火でして蒸し焼きにする食べ方だ。滅茶苦茶美味いぞ」

「なるほど、乞食のような生活をした事があるご主人様にぴったりの調理方法ですね」

「それ悪口だから、全く褒めてないから。あと、絶対するなよ」

「……全部空腹が悪いんです」

「食べる前提で言ってないか、それ」

「お腹が空きました。早く朝食を作って下さい」

「はぁ、二日酔いは治ったのに頭が痛くなってきたよ……。やるならオスのニワトリでしてくれよ?」

「……。善処します」

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