第2話 コル家

 ウルルスは何代も続く魔法士の名家、コル家の長男であるが、家を継ぐ嫡男では無い。

 異母兄妹は多かったが父親に嫌われていた、それも視界に入ると毎回毒の塗られたナイフが飛んでくる位には嫌われていた。

 避けられない方が悪い、そんな家風だった。攻撃魔法でないのは屋敷の内装が壊れるからで、優しさでは無い。


 それは、ウルルスの母親が産後の肥立ちが悪く亡くなったのが主な原因である。最愛の人の命を縮めた実の息子を愛せなくなったとしても仕方無いのかもしれないが、幼いウルルスに何故父親に愛されないのか察しろというのが無理な話だった。


 ウルルスを慈しみ育てたのは母親の従者である女性で、ウルルスはその人が母親だと思っていたのも親子の関係を悪化させた一因だった。


 ウルルスは魔法士の家系に産まれながら攻撃魔法は一切使えない。魔法士としては欠陥品。本人に余り適性がないというのもあるが、回復魔法の方がウルルスは得意であり、その派生である身体能力強化魔法活性魔法はコル家が始まって以来の才能。


 いや、異能だった。


 その事も父親に嫌われる理由なのだが、ウルルスは身体能力強化魔法と体術だけで相手の攻撃魔法が発動する前に倒してしまう。魔法士殺しの二つ名はその戦闘スタイルが由来だ。


 コル家の異能、異端者として影で蔑まれながら育ったウルルスは十五歳の成人年齢に達するとなんの憂いも無く家を出た。最初は冒険者ギルドに所属して回復術士兼荷物持ちとして重宝されていたのだが、臨時パーティーでの揉め事で人を殺めてしまい、冒険者ギルドを追放された。


 暗殺者になったのは本当に成り行きで、ある依頼を遂行したらスカウトされたのだ。

 その依頼は暗殺者ギルドの入会試練であり過去最高評価で合格した。暗殺者ギルドで働くようになると、人間の裏表をありありと見せられ、軽い人間不信になった。酒の味を覚えたのもストレスから逃げるためだ。


 圧制を敷いていた国王を手に掛けたこともあれば、聖職者の皮をかぶった悪魔を退治したこともある。大商人の屋敷に住んで居たこともあれば、乞食の様に路上で何日も寝ることもある。


「ご主人様はお金に興味が無いのですか?」

「酒を買うのに金は要るからな、興味が無いわけじゃないさ」


 長ソファーに腰掛け、銀貨五枚した二十年物の蒸留酒を水で割らず、ストレートでチビチビと飲んでいたウルルスはそうティアに答える。


「金が無ければティアも家も買えなかったしな」

「それは、そうですね。てっきりギアスで性奴隷にでもされるのものだと……」

「俺は諦めてないのだが……」

「私の自由意思に任せると言ったのはご主人様です」

「ま、好感度が上がるように、せいぜい頑張るさ」

「ちなみに、マイナスからのスタートなので、今は気になる異性の同居人レベルです」

「……それは思い切って手を出すべき案件では?」

「そう思ってるのは肉欲に正直な男性側だけです」

「ははは、厳しい意見だ」


 残っていた酒をグイっと開け、


「美味しい食事に美味い酒。傍らには見目麗しい美少女、ひょっとして俺は人生の勝ち組では?」

「はいはい、酔っぱらいは早く寝ましょうね」

「俺はここで寝る、狭いベットで一緒に寝るほど好感度は高くないだろ?」

「では、おやすみなさい。ご主人様」

「おやすみ、ティア。いい夢を」

 


 

 

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