第6話 目標、闇の大神殿


 コロが山賊?の一団を死体諸共もろともきれいに食べて処分してくれた。さっきまでバカ面をさげて俺たちの前にいた山賊団は文字通り完全消滅したわけだ。


 御者ぎょしゃ席で一部始終を見ていたおっちゃんに、


「見てて楽しかったでしょ?」


 とかトルシェが言って、ニヒヒと笑いかけた。


「ヒエー! お助けを! お助けください!」


 そう言いながら両手を合わせて俺たちに拝んでくる。


 拝むんなら、ちゃんと二礼二拍手にれいにはくしゅ一礼いちれいで拝めよな。


 とは思ったが、正式な礼拝法を知っている人間は今のところ俺たち以外いないのでまあそこは許してやる。


「何もしないからちゃんと御者をやってくれよ」俺がフォローしておいた。



 後ろにまわって、幌馬車に乗り込み、


「みんな乗ったから、出発してくれ」


 御者のおっちゃんは黙ったままで返事をしなかったが、馬車はゴトゴトと動き始めた。


「ダークンさん、いまのは意外とつまらなかったですね」


「確かにそうだが、コロの体液がそれなりに使えることが分かったのは良かったじゃないか」


「この調子だと、王都に行って殴り込みをかけてもつまらなそう」


「トルシェ。王都の殴り込み先にはきっと金目のものがある。それに期待しておけ」


「そういえば、そうでした」


「だけどトルシェ、金なら今でも十分持っているだろ? どうしてそこまでして金目のものが欲しいんだ?」


「うーん。ダークンさんは、道端で小銭が落ちているのを見つけたら幸せだなーって感じませんか?」


「少しは思うかもな」


「そういうことなんです」


 そう言ってトルシェがニッコリ笑った。


 小銭を拾う感覚で、よそさまの屋敷の中で金目の物を物色していたとは知らなかった。


 ようは、トルシェは小さな幸せを追い求めているってことだな。いわば趣味ってことだろう。変った趣味だし、普通そういった趣味を持つ者はいないと思う。


 そんなヤツは立派な犯罪者だが、いまのところ官憲に追われているわけでもない。さすがというか、おれの眷属、『おれの右手』のトルシェは一味違う。


 さっきから黙っている『おれの左手』たるアズランを見ると、コロの体液の入った瓶をしげしげと眺めている。おそらく臭いを嗅ぐだけでも猛毒なのだろうが、われわれにはそういったものは一切無効なので心配する必要はない。


 御者のおっちゃんの方に臭いが流れていくとマズいかもしれないが、だいじょうぶだろ。多分。


「アズラン、なんか変なところでもあるのか?」


「あまりに即効性が高すぎて、相手がほぼ即死してしまい、苦痛を与えることができませんでした」


「水で薄めればいいんじゃないか? あっ! 『暗黒の聖水(注1)』で薄めたらどうだ? なんかすごいことになりそうだろ」


「なるほど、それは面白そうですね。やってみましょう」


 

 アズランが『暗黒の聖水』の入った水袋の栓を抜いて、コロの体液の入った瓶に適当に注いで、瓶の蓋をしてカシャカシャと振った。これでよくかき混ぜられたはずだ。


 瓶の蓋をとって中を覗いたアズランが、


「あれれ?」


「どうした?」


「真っ黒だった中身が透明になってます」


 俺も瓶の中を覗いたところ、確かに中身が水のように透明なっている。プラスとマイナスを足してゼロになってしまったか?


 マズッたかな? まあ、コロの体液はいくらでもという訳にはいかないかもしれないが、コロに頼めば相当量確保できるから大したことじゃない。


 水に見えるがまさか本物の水ではないだろう。瓶を揺らしたり傾けたりしたところ、最初水に見えた液体には、ある程度の粘度があるようで、なんだかぬるっとした液体ローションだった。一応鑑定したほうがいいだろう。実は俺も女神さまになったおかげで近くの物なら鑑定できるようになったんだぜ。


 どれどれ、何々なになに


名称:万能薬

種別:飲み薬、塗り薬

特性:全ての毒と、ほとんどの病気と呪いに効く万能薬。肉体的損傷、部位欠損も修復する。



 逆方向にとんでもないモノができてしまった。


 以前宝箱から出てきた『カダンの万能薬』よりこちらの方が効能が高い。


 今の俺たちにはほとんど無意味な薬だが、なにかの役に立ちそうだ。例えば布教活動に使えば絶大な威力を発揮するはず。


 そうだ! 大々的に布教するならでっかくて立派な建物があった方がいい。目指せ、の大神殿!


 なんだか、良い目標を思いついてしまった。


 コロの体液を溜めておける適当な瓶がいまはもうないので、フェアのインジェクターに塗る毒はなくなったけれど、別に人相手なら、インジェクターで頸動脈を切るだけだし、究極兵器リンガレングを今は連れていないが、それでも俺たちが超過剰戦力であることは変わりない。



「瓶の中身はコロの体液と暗黒の聖水が反応して万能薬になったようだ。こいつはそうとうすごい薬だぞ。お礼参りの仕事が終わったら、これを使って王都で信者を集めて、俺たちの大神殿を建てないか?」


「おーー、大神殿! いえ『闇の大神殿!』」


「私たちの新たな目標ですね。頑張ります!」



『闇の大神殿』か、なかなかいい響きじゃないか。さすがはC2-ポジティブ(注2)のトルシェだけはある。


 大神殿建設はわが闇の両手の二人にも受けが良かったようだ。よーし、頑張るぞ!


 目指せ『闇の大神殿!』







注1:暗黒の聖水

テルミナ大迷宮内の回復の泉から流れ出る水。気力・体力の回復を促す。渇きはもちろん、飢えをも満たす。現在ダークンたちは収納キューブ(注3)の中に大量に保有している。


注2:C2-ポジティブ

C2病陽性者または感染者。発症した後数年で自然治癒するが、一生この宿痾しゅくあを抱えて生きてゆかなければならない者も少なからず存在する。


注3:収納キューブ

5センチ角のサイコロ型をしたマジックアイテム。多くの物をその中に収納することができる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る