ナハダーン・タース

〈12月25日〉


 クリスマスの朝。


 おれはベッドの上で体を起こした。

 隣にルミはいない。


 携帯にメッセージが入っていた。


薔薇バラ花瓶かびんが一つ増えました》


 キジマからだ。

 綺麗な薔薇の写真が送られてきた。

 そっか、薔薇の花をプレゼントしたのか。

 いきなやつだ。


 母さんからも、メッセージが入っていた。


《今日、色々買い物あるから。お父さんも一緒に行くから。早めにきて?》と書かれていたので、おれは——《すぐ行くよ、出かける準備して待ってて》と返した。ちなみに、リカからのメッセージは入っていない。


 おれはリビングに行き、テレビをつけた。


 歌番組の特番が放送されていた。

 クリスマスソングが歌われている。

 しばらく画面を見つめて音楽に耳を澄ませた。

 鈴の音が心地よいクリスマスソング。

 歌詞は、こんなだった。 



  高い玩具おもちゃ


  おっきなケーキも

 

  いらないから

    

  サンタクロース


  家族や友達の


  今年一番の笑顔をください


  メリークリスマス  


  暖かい  


  声が聞けるかな


  寒がりの君を

 

  抱きしめて


  メリークリスマス雪は


  天使の羽のように


  降り積もる朝には


  目に見えない


  幸せと


  サンタの足跡見つけるよ

 

 


 おれは玄関のドアを開けた。

 朝の風を浴びて——

 自分が生きていることを確認した。

 ふと、地面に目線をやると、

 雪に足跡がついていた。


 その足跡は外に向かって続き、トナカイとソリが雪につけたのであろう跡のところで途切れていた。ルミは、おれが生きていることを確認して本部に帰った、ということだ。


 おれは空を見た。

 白い小鳥の羽のような——

 綿雪が降ってきた。

 寒っ——!

 声を漏らし、

 玄関に戻ろうとした。

 すると——


 ドアノブに真っ赤で大きな靴下がぶら下がっていた。すぐに誰の仕業かわかった。おれは靴下をドアから外し、その中に手を入れた。靴下の中には手紙が入っていた。イチゴ柄の、手紙。


 手紙にはこう、書かれていた。


『ナハダーン・タース!』


 おれは——

 この言葉の意味を知っている。

 このフィンランド語を、

 そのまま日本語に訳して、

 あいつに聞こえるように。

 聞こえてくれることを、願って。

 銀色の空に、言った。



「あぁ、また会おう」


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クリスマ・スマイル 燈羽美空 @CooToumi

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