手の甲にきのこが生えた

@zoe

第1話

手の甲にきのこが生えた話


朝、起きたら

手の甲にきのこが生えてました

左手です

邪魔だし、はずかしいし

自分で取ればいいのですが

まあまあ、痛い

そんな手で、ネットで検索すると

わりと近くに

世界的きのこ除去の権威なる

病院があるという

手近にあった空き箱に

手をつっこんで

きのこを隠し

病院に急いだ


それにしても

きのこが生えるなんて

めずらしくもないのだろうか


電車に乗りながら

広告を見てると

いままでは気がつかなったが

わりと、「きのこ除去」の

広告がある

なんだ、もっと安いとことか

あるのかも

でも、予約しちゃったからいいか


13回乗り換えをへて

「樹樹樹」駅についた

病院は駅からすぐだ


街並みは

激安でおこなえる整形外科と

高級クラブがそこらじゅうにある

ふしぎな街だ


片側二車線の道路は

どこまでも続く

この街のこまるところは

どの道も

同じ風景に見えてしかたない

ということだろう


目的の病院は

高級クラブと高級クラブのあいだに

ひっそりと入り口をかまえていた


というか

これは、裏口だろう

もしかすると

きのこ外来は

人の目から逃れたいものなのかも

しれなかった


ドアを入ると

中はまっくら

ただ

うす暗いなか

ちいさな受付があった


「はじめてなんですけど」

僕は言った

「きょうはどうされました?」

看護師が言う

「あの、これ」

僕は箱ごと左手を差し出す

「あ、はいきのこですね」

察しのいい看護師


ここで僕の記憶はとぎれる

というか

気がついたら

きのこはとれていた

というか

特に暗くもないロビーにいた

たぶん

ここが本来の入り口なのだろう


どうやら

既に会計もすんでいるようだ

あのきのこはどうなったんだろうか


ここで

気がついた


僕は

裏口から入った時

靴からスリッパに

はきかえていた


しかし

どうにもあの裏口につづく

通路がみつからない

看護師に聞いても

なにかはぐらかされる

そういうものだろうか


まあ

とりあえず

外からあの裏口にまわりこめば

そう思って外に

はだしのまま出た


その日は

少し肌寒く

僕はなにか温かいものでも

飲みたかったが

そんな店ここらに

あるだろうか


あった

立ちのみスタイルの

スープの店が


きょうのおすすめは

なぞのきのこのスープだった


きのこ?

まさか、あれじゃないだろうな

まさかな


写真をみる限り

自分の手に生えていたきのことは

違うものらしかったが

いちおう食べてみた

ものすごくうまくて

これはリピート確実


その時も

はだしのままの僕は

急いで靴を探しに行く


あれは

最近買ったお気に入りだから

どうしても

というか、はだしでは帰れない


それにしても

飲み屋はわかるが

こんなに整形需要があるものなのか

本当に

高級クラブと整形外科が

交互に並んでいる通りを

確かこのあたりと

あの病院の裏口を探すのだが、ない


おかしい

こんなにもないものか

さっき見た時は

高級クラブだった店舗が

いま見ると、整形外科になっている

気のせいか、はたまた


ふいに思い出す

そうだ、この街だ

あのゼロキロダイエットの

専門医があるのが、この街だ

減量に減量を重ねた結果

ついに、ゼロキロを達成した者が

続出したと話題のあれだ

さらには

マイナスキロという

謎の記録もうちだした

そんな専門医があるのが、この街だ


そして

名物マイナスキロ飲料の自販機も

あるのがこの街だ

あざやかブルーのパッケージに

「マイナスキロ」と書かれている

飲むだけで、減っていくって

危険すぎるだろう、それは

なにが入っているかわからない

これから

高級クラブに出勤されるお姉さんが

ぐびぐび腰に手を当て飲んでいた、すげえ


このあたりで

僕は病院の裏口捜索をあきらめ

靴の自販機で靴を買った

これで帰れる


夕暮れにかけて

いよいよこの街の

きらびやかさがうっとおしい


それにしても

あの

見たこともないきのこのスープは

一体なんだったんだろう

味はうまかったけど


帰りに

駅前にあった日本箱流通センターに

手のきのこを隠すための箱が

激レアの箱で高額で売れたのは

本当によかった


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

手の甲にきのこが生えた @zoe

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ