リングをかけろ‼︎ 超人選手権!!

長月瓦礫

リングをかけろ‼ 超人選手権‼


空中に浮遊する岩の上に銀河中から集まった強者がひしめき合っていた。睨み合い、会釈を交わし、殺伐としている。


スタジオにはスーツを着た男性二人がマイクに向かって喋っている。


「えー、昨年の蓬莱の玉の枝杯からもう1年が経とうとしております。

今年も早いもので、ついにこのイベントが今年も始まろうとしております! 

超人選手権 in 土星!」


頭上にある画面では、怒涛に流れるコメントが表示されている。

視聴者も気軽に参加できるので、その場の空気を共有できる。

全宇宙からネットを通じて放送されており、かなりの視聴率を獲得している。


「みなさん、こんばんは。

今回、実況解説を担当させていただきますのは、水星生まれ水星育ちの水星ボーイことミズハシでございます。そして本日のゲストは!

前大会で選手権初出場にして、超人の座を勝ち取ったこの人! 

今話題沸騰中のアイドルグループ、ホウキボシのコメットさんです!」


「紹介ありがとうございます!

ホウキボシのボーカル担当、コメットです!

今日はよろしくお願いします!」


「はい、よろしくお願いします。コメットさん、前回の蓬莱の玉の枝杯では、見事超人の座を勝ち取ったわけですが、今年はどのような一年でしたか?」


「そうですね! かなり充実してたと思います!

今年はライブツアーが開催され、1年かけていろんな銀河を駆け巡りました!

どんな星でも俺たちを歓迎してくれて、とにかくすごかったです! 

全行程無事終えることができたのも、みなさんのお力があってこそです!

本当にありがとうございました!」


「いやあ、全チケット完売、しかもグループ結成100周年を迎えたという偉業はなかなか達成できないことです。本当にお疲れ様でした。

それではですね、コメットさんも参加された超人選手権について、改めて解説していきましょう」


始まりは地球のとある番組で行われたサバイバルレースだった。

各種ステージで用意された巨大なギミックをクリアし、ゴールを目指すというものだ。生半可な体力では完全制覇できないコースばかりで、アクションゲームの主人公よろしく軽々と超えていく姿は見る者を楽しませている。


これが年末年始の地球でヒットしている番組の一つである。


ところで、宇宙には過疎惑星と呼ばれる誰の目にも止まらないような惑星が数多く存在している。住民がおらず放置状態となっている惑星、環境そのものが厳しい惑星など、その他さまざまな事情を抱えている星はかなり多い。


この事情に目をつけたのが、この宇宙放送協会である。過疎惑星にしかない環境下でサバイバルレースを行えば、番組も盛り上がるし、経済的にも潤うのではないか。


その狙いは見事的中し、今では年末年始の風物詩となった。聖地として訪れる客も増え、経済回復に大きく貢献することとなった。


この選手権では、惑星にちなんだ特殊ルールが追加される。ルールは当日になるまで明かされず、参加者たちはありとあらゆる状況を想定した訓練を積まなければならない。


「コメットさんが参加された前回大会では、月に生える蓬莱の玉がなる木を探し、本物そっくりの枝を作るという特殊ルールが追加されましたよね」


「ええ、アレには大変苦戦させられました」


「今回も特殊ルールが追加されているとのことなので、確認してみましょう」


『土星の輪を一番早く駆け抜けた者を勝利者とする。

輪から一歩でもはみ出た場合、即失格とする』


あまりにもシンプルなルールのため、視聴者からも疑惑の声が上がる。

当然、手抜きだのなんだのと言うコメントも飛んでくる。


「これだけだと、何が特殊なのか分かりませんね」


「シンプルだからこそ、奥が深いのがこのレース。

さあ、画面の前の貴方もこのレースの行く末をご覧になりませんか。

参加方法も実に簡単です! 

お手元にありますハートの応援ボタンをポチッと押していただくだけ!」


「これのことですね! ハイ、これで参加完了のメッセージが届きました!

あとは選手権を楽しむだけですね!」


「この応援ボタン、選手たちの情報やコースのギミック解説などもございますので

そちらもあわせてお楽しみください。

さあ、レース開始まで残り30秒を切りました。

すでにカウントダウンが始まっております」


「会場の熱気も高まってますね! この緊張感、たまらないです!」


「さあ、各選手がスタート位置に出揃いました。

5、4、3、2、1……レース開始の笛が鳴りました!

おっと、いきなり頭一つ出たのは地球代表のシュート選手!

他の選手たちを置き去りにし、トップに躍り出ました!」


「なるほど、乗り物と自分自身を合体させたわけですね。うまいこと考えたなあ。

しかし、これは……何なのでしょう?

大きなタイヤが二つ、筒のような物に繋がれているように見えますが」


「ああっと! ここで土星の輪にぶつかってしまった!

しかし、その衝撃波や破片が他の選手たちに当たり、次々と場外へ弾き出していく! 巻き添えを食らう選手が続出しております!」


「文字通り、輪が乱れたわけですね」


「これが今回の特殊ルールの恐ろしいところでして、裏を返せば、妨害行為を一切禁止していないんですね! もうご覧ください、このカオスな状況! 

他の選手も次々と妨害を始めております!」


「なかなかの混戦状態ですね、これは」


「誰が優勝してもおかしくない、泥沼レースと化してきました。

誰かが誰かの足を引っ張り、道連れにしております!」


自爆特攻に空爆、魚雷が飛び交うその舞台は、とりあえず目の前にいる敵を排除することしか考えていないように見えた。視聴者もこの状況には笑うしかないようで、コメントにはwの文字列がずらりと並んでいる。

選手たちは次々と吹き飛ばされ、優勝者が出ないのではないかと思われた頃、土星の輪の上に勝ち残った二人がゴール手前に立っていた。


「いよいよ、このレースも終盤に近付いてまいりました。

両者お互いに、にらみ合って立っております。まずは木星出身ボイジャー選手。

彼はシュート選手が飛び出した瞬間、土星の輪の上へ避難し、ずっと状況を見守っていたようですね」


「爆破による衝撃も耐えうるそのボディ、まさにその名にふさわしい姿ですね」


「向かい合うは、金星出身ミロ選手。

なんと、相手をメロメロ状態にし、一切攻撃をさせなかった模様です」


「自身の美貌を盾にするその戦法、ヴィーナスそのものです」


「お互いにすごい作戦を思いついたものです。

今はじっと、出方をうかがっているようですね」


「しかし、ミロ選手の美貌のとりこになってしまうと攻撃できなくなりますからね。

ボイジャー選手にとって、なかなか不利な状況だと思われます」


「なるほど、そのような見方もできますね……ボイジャー選手動いた!

相手の胸元に飛び込み、シンプルにぶん殴った!」


「負けじとミロ選手も殴り返しましたね。

正々堂々とした戦いになりそうです!」


「これまで散々卑怯な戦いが繰り広げられたこのレース、最後を飾るのはまさかの殴り合いです! 拳と拳で語り合う、熱い展開となってまいりました!」


「いやあ、まさかこんなものが見られるとは……」


「殴り合いながらも、じりじりとゴールへ近づいています。お互いの隙を狙いつつ、ゴールへ飛び込もうとしています!」


コメント欄でも適当に効果音を文字で書き起こされ、休むことなく流れ続ける。

拳が飛び交いながらも、視線はゴールラインを狙っている。お互いの顔に一発加えたと同時に、両者同時にゴールラインを超えた。

すぐに救急係が二人を医務室へ運び込んだ。


「たった今、両者ほぼ同時にゴールしました!

現在、スタッフによるビデオ判定を行っておりますので、少々お待ちください」


「あの泥沼レースからの正々堂々としたこの展開、どうなるんでしょう!」


「どちらが勝ってもおかしくない状況ですからね。さあ、判定結果が出ました!

この泥沼レースを抜け出し、殴り合いを制したのは……」


ドラムロールが流れ、固唾を呑んで見守っている。ゴールの瞬間がスロー再生される。


「ボイジャー選手! ボイジャー選手です!

片足がラインを超えていた!

これにより、今回の超人となったのは木星出身はボイジャー選手となりました!」


「おめでとうございます!

あの混沌な状況から見事勝利を勝ち取ったその姿! よくぞ最後まで戦ってくれました!

まさに超人です!」


コメント欄も賞賛の嵐が巻き起こった。

8が並び、歓声が湧き起こる。


「さあ、これにてレースも閉幕となります。後日改めて、表彰式及びインタビューを行った番組を放送します。

また、このレースをもう一度見たいという方、見逃してしまった方のために、アーカイブ配信もございますので、そちらもあわせてご覧ください。

それでは、地球は富士山麓、青木ヶ原樹海にて来年お会いしましょう!」


「全宇宙のみんな、グッバイ!」


番組の終了を告げるジングルが鳴り、放送は終了した。後日、この土星の輪を目当てに、多くの観光客が訪れ、賑わいを見せたのだった。

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