時間停止系AV男優が撮影中にテクノブレイクで死んだ。能力解除前に死んだので、世界の時は停止したままに

下垣

9割ヤラセとか夢を壊す発言するな

「ええ。撮影が開始したらこのタイミングで時間を止めてください。次に背後から女優の服越しに胸を揉んでください。胸の揉み方は自由でいいです。胸を揉んだ絵を撮ったら、後は好きなように体を弄んでください。女優も了承しているので。あ、一応分かっていると思いますが、女優の傷に残る行為は辞めてくださいね」


 明らかに如何わしい発言が飛び交う撮影現場。脚本家が、椅子に座って踏ん反り返っている男優に丁寧に打ち合わせをしている。男優は一言「うぃ」とだけ言って、スタッフが用意したマムシドリンクを飲んだ。


 女優が主役となるアダルトなビデオの撮影現場。男優の価値、ギャラ、扱いなんてゴミカスのようなものなのに尊大な態度をとる男優。そう、この男優はただのAV男優ではない。時を止める力を有した男優なのだ。これくらいの態度は取って当たり前。持っているスキルを考えれば、逆に謙虚すぎるくらいだ。


 男優は飲み終わったマムシドリンクのボトルを机に置き、2本目のボトルを口にする。


「あの……そんなにドリンクを飲んだら、撮影中にお手洗いに行きたくなりますよ?」


「なんの問題がある? トイレなら目の前にあるじゃないか」


 そう言うと男優は、パケ写を撮っている女優を下卑た瞳で見つめた。脚本家はこの男優がやろうとしていることを察してドン引きをした。


「さあ。時間停止が解除された時、あの便女がどんな反応をするのか楽しみだ」


 なんやかんやあって撮影が始まった。少し淡い赤色を基調にした部屋。女子っぽい部屋にいる女優とエキストラの男性。この2人は恋人という設定だ。2人が楽しく談笑している時、監督が男優に合図を送る。


「ハァ! 時よ止まれぃ!」


 ズドォーンという効果音と共に世界中の時が止まった。人は止まり、電車も止まり、鳥も制止し、風も止み、犬は動く。


「ここから先は……俺の『時間』だぜ……」


 男優はそのまま女優に近づき、後ろから胸を鷲掴みにした。乱暴な掴み方。こんな乱暴にされたら、よほどドMな女性でない限りは苦痛に顔を歪めるだろう。だが、女優は時が制止している。痛いという感覚すらないのだ。


「チッブラ越しに胸を揉んだってなーんも楽しくない。それにしてもこの女優の網タイツはエロいな。丁度いいキメの細かさ。網タイツ。それは視覚にも触覚にも暴力的なほどのエロスを与えるアーティファクト。擦らずにはいられない」


 男優は自身の欲棒を女優の太腿に擦り付けた。


「く、このままでは果ててしまいそうだ。ならば、ハァ! 時よ止まれぃ!」


 男優の棒の時間が止まった。直立としたまま固定されて、どれだけ刺激を与えても果てることはない棒へと変貌したのだ。


「今の内に擦り付ける。そして、時を解除した時。時が止まっていた間に蓄積された快感が一気に押し寄せる。ククク。ビッチが! その時が貴様の最期だ。貴様の視界を白く染めてやる」


 と、ここで男優は急に催してきた。棒の時間は止めているのだが、膀胱の時間までは止めていない。


「む、しまった。棒の時間が止まっている。ということは、筋肉が動かないと言うこと。膀胱の水を塞き止めるための弁が作動しない。このままでは情けなく垂れ流しになってしまう。うおおおお。間に合え!」


 男優は自身の棒の時を解除した。すると、女優の網タイツ太腿に擦り付けていた快楽が爆発する。更に排尿による快感も併せ持ち、それはもう地獄絵図のような光景が広がった。


 色んなものが垂れ流しになる男優の股間周り。その凄惨すぎる快楽に男優の脳は耐え切れず焼き切れてそのまま意識がどんどんと薄れていく。


「バ、バカな……この俺が! お、俺は選ばれた1割のエリートだぞ! そ、そんなバカな!」


 そう言い残して男優は息絶えた。


 男優の死後、能力は解除されないままだった。男優の能力は死ねば解除されるというものではなかった。むしろ逆。死後に強まる。こうなってしまっては、最早この世界は止まったままだ。なぜなら能力を解除できる唯一の男優が死んでしまったからだ。


 静寂が訪れる。この世界は停止したまま。滝も雲も原子力発電所も停止したままだ。この世界で動いているのは犬だけだ。


「やれやれ……全く。どうして俺様が人間の不始末をせねばならんのだ」


 この犬も時間停止の能力者だ。男優と同じタイプの能力者。故に止まった時の世界に入門することができたのだ。


 犬は現場に入って行き、男優の近づく。そして、男優の時間を止めた。


「流石に死後強まる能力を解除することは俺様にもできない。だから、このどうしようもない男を蘇生させる。今ならまだ仮死状態だ。まだ助かる。まだ助かる。まだ助かる……マダガスカル!」


 犬は前足を器用に使って、男優の心臓をマッサージし始めた。


「単なる心臓マッサージでは蘇生する見込みは少ない。だが、時間停止解除後に蓄積された心臓マッサージエネルギーが爆発すれば、再びこの男の心臓は動くだろう」


 犬は一生懸命心臓マッサージをした。犬が動かそうとしているのは、男優の心臓ではない。この世界の脈動なのだ。この男優が精子をぶちまけたせいで静止してしまった世界をもう1度動かす。


「そのための力を俺様にくれ! ワオオオオン!」


 犬のマッサージの力が最大限に達した時、犬は男の時間を解除した。解除された男優の肉体は心臓マッサージエネルギーが溜まっていたせいで一気に爆発する。暴力的なほどに動き出す心臓。血液全体が循環して、男優に生命の息吹を与えた。


「こ、ここは……」


 男優が目を覚ました。だが、そこにはもう犬の姿はなかった。犬は感謝されたかったわけではない。ただ、自分の使命を全うしただけだ。この場に居残り続けるのは無粋というものだ。


「まあいいや。なにがなんだかしらんが時間停止解除」


 ブァーンと効果音が鳴り響く。停止していた世界は再び動き始める。


「え!? きゃ、なにこれ!」


 女優の太腿に訳の分からない液体が付着している。この液体の正体は考察してはいけない。


 こうして世界は救われた。名もなき犬のよって……この犬の活躍は誰にも知られるはずがなかった。そう、語り継がれない英雄譚として風化されていくだけ……だったはずだった。


 実はこの場にもう1人能力者がいたのだ。彼は全てを見ていた。そう、ビデオを撮るのに欠かせない彼の存在を忘れてはいけない。


(犬君。キミの活躍は僕がこの目できちんと見届けたよ)


 それからと言うものの、この犬は定期的に人間の愚行を監視するために、時間停止モノのAVに稀に映りこむようになったのだった。今回のような事件に対処をするために……


Dog is god!

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時間停止系AV男優が撮影中にテクノブレイクで死んだ。能力解除前に死んだので、世界の時は停止したままに 下垣 @vasita

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