第2話 異次元の温泉宿『雪灯り』

 一行が転送された場所は雪深い渓谷であった。

 その中に一軒、ポツンと温泉宿が建っていた。『雪灯り』と言う名の温泉宿だった。

 添乗員の黒部、ガイドのハルカ、そしてツアー客5名は玄関前に。オルレアンとエリュシオンの人型機動兵器、戦車リベリオンと全翼機トモエは建物の脇にある空き地に転送されていた。


 その宿を見ながら美冬とノエルがはしゃいでいた。


「うわー。温泉って、本当だったんだね!」

「すごいね。和風って言うの? 地球的? 日本的? 火星じゃこんなところないよね」

「残念ですが、これは火星の地下都市アケローンにある温泉宿と同じものですね。『雪灯り』はアケローン地底湖の脇に実在していますし、外観はそっくり同じです。ただし、20世紀の日本をイメージした造りは火星においても非常に評判となっております」


 はしゃいでいる二人に宿のを教えたのはアンドロイドのみゆきだった。


「へえ、そうなんだ。知らなかったな」

「ありがとうございます。落ち着いたらアケローンに行ってみたいです」


 律儀に礼を言う二人。みゆきはどういたしましてといった風に微笑んでいる。しかし、苦虫を噛み潰したような渋い表情のハルカは何やらぶつぶつと呟いていた。


「温泉宿に来るのに何で戦車とか大型ロボが必要なんだ。こりゃきっと裏があるに違いない。温泉ツアーは名ばかりで、何かの策略なのか……」


 と、黒部を見つめるハルカだったが、黒部と目が合った途端にうつむいて頬を赤らめる。


「だから……これは温泉ツアーであって、何かの策略などではないのだ……」


 と、引き続きぶつぶつと呟き続けている。その傍で黄金色の金属製義体のヴェーダが説明を始めた。彼はロボットのような外観であるがサイボーグだ。


「えーっと、皆さま、ガイドのハルカさんが何やら役立たずになってしまったようなので代わりに私、ヴェーダが施設の説明をさせていただきます。只今手元に到着した資料によりますと、この温泉宿『雪灯り』は、実際にアケローン地底湖のほとりにある旅館のコピーです。ただし、従業員は不在。お客様のお世話は妖精さんが行う……。らしいです。ただし、このサービスの質は元祖日本の温泉旅館と比較しても引けは取らない、むしろ高い位である、という事です。ただし、妖精さんは働き者ですけれども非常にシャイらしいです。なかなか姿を見せないのですが、見かけた場合は声をかけて感謝の気持ちを伝えてください。感謝の気持ちが彼らの栄養となり活動のエネルギーへと転換されるのだそうです」

「とまあそんな事です。はい。では皆さん、宿の方へと参りましょう」


 相変わらずニコニコと笑顔を絶やさない黒部であった。

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