第9話 過去編は突然混ざるとわけわかんなくなる

全機械総合機能大会、サイボーグ、ロボット、アンドロイド、様々な機械が国一つ単位の規模の土地で殺し合う、大会と言う名の戦争、金持ちたちの悪趣味な道楽が行われてた。もちろん、小夜子たちも参加した。この大会で優勝した型がゴッドハザードの対応する選ばれた機械に選ばれる。小夜子たちは『女性型』という枠組みで参加した。


 あの後、小夜子たちはある目標ができた。誠を殺した『光条グループ』への復讐だった。この大会に優勝できたものは、表彰される。国や企業のあらゆる代表が来ている、その時、『光条グループ』の代表が無防備な姿で登壇する、その時だ、自分たちが討つのは、討った後のことは考えていなかった。


 始まった時に、知能が無い機械がいきなり襲い掛かって来る、その知能が無い機械が小さい犬型ならまだしも大きな特撮ででてくるような怪獣型なんてものが襲ってきたから、少女たちは作戦を立てる前に吹き飛ばされていった。始まる前に作戦は立てるべきものであったが、その日どころか、大会が始まる直前に全隊員があつめられ、作戦を立てる時間などなかった。


 小夜子の隣には、「よろしく」と握手を求めてきたショートヘアーの女性型サイボーグがいた。


「どうも」小夜子は最小限に挨拶をとどめる。


「なんや自分、ちゃんと挨拶せなあかんで、うちらは、今日から仲間なんやから」


「仲間?」


「そうそう、同じ釜の飯を食らう仲間なんやからな」


「仲間、か」その時、小夜子は誠のことを思い出していた。思わず笑みがこぼれて「そうね、よろしく」と握手をした。同じくショートヘアーの少女は握り返す。


「うちの名前は、ガレット、自分は?」


「小夜子です、よろしく」


「そうかぁ、小夜子かぁ、ええ名前やな、なぁ、自分、この戦い終わったらどうするつもりや?」


「え?」突然聞かれたので返答に困った。まさか、光条グループの復讐なんて言えるはずがない。だから「ま、まだ、決めてない」と言った。すると、ガレットは「そうかー、うちはな、海の家をたててそこで生活しようと思っている」


「海の家?」小夜子が質問するとガレットは得意そうな顔をして「そうや、うちは海が好きやねん、だから海で生活したいと思ってる、海ってええよな、なんか、どこまでも続いてて、どこまでも行ける、そんな風に元気づけられる気がして」そう言って、ガレットは自分の遠い未来を見つめるような目をする。


「そっか、じゃあ、絶対に生き残らないとね」


「ああ、そっちもな」その直後、始まりの合図としてサイレンが鳴った。


 その途端、小夜子の地面が小夜子ごと吹き飛んだ。


 少女たちの叫び声が小夜子の鼓膜を揺らした。小夜子はその場に踏ん張って留まったから良かったものの、大半の少女たちは吹き飛んで、大型怪獣型に食われたり、足や手をもがれてなぶられたりした。小夜子は自分の横を見る。そこには、先ほどまで関西弁で喋っていた快活な少女だった物体が五体不満足の形で横たわっていた。


「おねえちゃん!!」気付くと、海が自分のすぐ後ろに立っていた。


「海」小夜子の目には、憎悪の炎が静かに灯っていた。


 その後のことは覚えていない。


 覚えているのは、沢山のサイボーグ、ロボット、アンドロイドの死体が転がっていて自分たちは夕焼けに照らされているそんな場面だった。


「おねえちゃん、約束、覚えてる?」不意に海が聞いてきた。横目だったが、海は虚ろで死んだ魚よりも暗い眼をしていた。もう、昔の海の表情とは別物だった。


「ええ、覚えているわ、必ず、あいつらを討つ」小夜子が言うと、「そうじゃなくて」と海は小夜子の言葉を制止したが、「いや、やっぱいい」と言った。小夜子は言われてから海との約束に気付いた、が、もうそのことを言う気になれなかった。もう、自分たちはたくさん殺してきたのだ。今更、そんなささやかな願いなんて、言う気にはなれなかった。


「おねえちゃん」海はそう言って、小指を小夜子に向かって立ててきた。


「約束」そう言われたので、小夜子は一瞬目を見開いたがやがて穏やかな目をして大人しく海に従い小指を海の元に出した。そのまま、二人の小指が交じり合う。小夜子も海もぎこちない笑顔をむけた。


「絶対だからね、おねえちゃん」






だが、その約束は果たすことが出来なかった。


 海がどうやって死んだか分からない。ただ、自分と同じ死にぞこないの軍服をきたロングヘアーの白髪の女が「これが、あの子に形見よ」といって、誠が誕生日にくれた写真を持ってきた。写真は海が肌身離さずもっていた。聞いた所、これを見ると元気が出るって言ってこっちも元気が出る程明るい笑顔をしていたのを小夜子は覚えている。もう実験は終わっていた、大陸を埋め尽くす位の人数がいたはずなのに、残ったのは自分を含めて9人の女性型サイボーグだった。その時、小夜子は思い出していた。仲間たちの死に際の声、そして、自分が命を奪った者たちの表情、声、自分たちは沢山奪われて、そして、沢山奪ってきた、その事実だけが小夜子の胸に突き刺さった。そして、いよいよ復讐を実行に移そうとした。


 しかし、その前に、警報が鳴った。『お客様、並びに各企業の代表取締役は今すぐ非難してください』繰り返しそのサイレンが鳴り、小夜子は焦った。光条グループの代表取締役が逃げてしまうと、小夜子は急いで屋上に向かった。今回の大会にはヘリでしか移動できない所にあったからだ。小夜子は人々をかき分けて屋上に出る。


 だが、次に小夜子の目には無人の屋上、つまり、光条グループには逃げられていたのだ。


「そん、な」小夜子はその場に崩れた、が、憎悪が彼女をすぐに大地に踏みとどまらせた。


 もはや、憎しみをどこにぶつければいいか分からなかった。


「目当ては差し詰め、光条グループって所かしら」後ろから声がしたので振り向くとそこには軍服の白髪の女がいた。


「なんで、分かったの?」


「私も、あの企業に襲われたから」そうか、自分以外にも光条グループに恨みがあるものがいたのか、と小夜子は感じた。


「貴方、何か勘違いしていないかしら」不意に女がそう言ってきた。


「え?」


「私が光条グループを恨みに思ってここに来たと」


「違うの?」


「半分は正解よ、でも、私はこの世の人間が全て憎い」そう言い女は目を刃物のように細める。


「今回の戦争、あれは所詮金持ちの道楽でしかなかった、貴方は知ってた? 私たちが生き残るか生き残らないかに金を掛けられていたことに、私たちが惨たらしくやられるごとに、喜ぶ変態どもがいたことを、今回会場に来た企業の総帥が全て影武者だったことに」


「かげ、むしゃ?」


「そうよ、まあ、わざわざここに無防備に来るなんて相手も馬鹿じゃなかったってことね、ご愁傷様、あんたは、私と同じ、ただ殺しに来たってだけよ」その言葉に小夜子はわずかな怒りの光を燃やし女に向けて剣で、斬りつけた。


 だが、女は漆黒の槍を取り出し、剣を受け止める。


 剣と槍の打ち合いによる火花が散る。両者は一歩も譲らない。


「あら、ムキになっちゃったかしら? まあ、でも事実だからしょうがないでしょ?」


小夜子の憎しみの光は止まらない、やり場のない怒りのぶつけているのは分かっていた、が、どうしようもない。


「私はあなたが嫌いよ、沢山の殺害をした後に、普通に暮らせると思っている貴方が、気に入らないわ」


「それは、あの子も、海も馬鹿にしているってこと?」すると、女は何も言わずに目を細めた


そして、剣を弾くと、崖際にひとッ飛びたった。


「まあ、いいわ、ひとまず、この勝負は預からせてあげるわ、それまで、せいぜい頑張って普通の女子高生みたいな暮らしにあこがれることね、妹との約束を果たそうとあがくが良いわ」     


そう言ってそのまま落ちていった。


 妹、海との約束、約束……「私は、普通の女子高生になりたい」その言葉は空を飛びやがて虚空に消えていった。残ったものは何だ? 小夜子は考えた、恩人を、妹を失い、仇も打てなかった。じゃあ、どうすればいい? 今でも小夜子の耳に少女たちの悲痛な叫び声が残っている。彼女たちの目的を果たすのだ、もう、自分にできることは、いや、自分にしかできないことはこれしかない、これが自分がこの戦争で生き残ってきた理由なのだ、自分の生きる理由なのだ、これは代わりはいない、そう「私が、ゴッドハザードを討つ」だが意志とは裏腹に声は小さく目には一点の光も無く、そこが見えない闇が広がっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る