第8話 刀の技名は絶対あこがれる

西京橋の下では、闇とDALLSのセーラー服の少女との攻防が繰り広げられていた。


(この人……だんだんとこちらの動きについていってる)風を切り裂くほどの少女の斬撃を闇は、初めは紙一重で躱していたが、だんだん動きが慣れたようで、ヒラリと紙のように避け始めた。(こいつの動きは大体分かって来た、なら、そろそろ)と闇が攻撃に移ろうとした時、少女は刀を振り下ろす、それと同時にビシュシュ!! と小さな水の弾が闇を襲う。

「く!!」闇は咄嗟に黒腕で防御をとった。キイン!!!!!

そこで少女は違和感を覚えた。(この音、これはまるで鋼鉄がぶつかる音、そもそも、この水の斬撃は鋼も撃ち抜く、鋼よりも固いと言うことか)



一方、闇の方も自分の右腕に変化があるのを感じた。

(何だ? この右手の感覚、これは自分の体の中に鋼や鉄が一気に埋め込まれているような感覚だ、それに、さっきからこいつへの攻撃、たまに鞘に当たることがあるが、当たる音が金属と金属がぶつかりあっているような音を出している)

闇は妙に思っていたがついにその違和感の正体をあかす時が来た。


少女の右横振りの斬撃、ここをかわして、と闇は、飛び上がった。


しかし、少女は右横振りの斬撃をするのを止めた。


 これは、フェイント!? 「さっきのおかえしです」少女が、闇が着地すると前に、斬撃をしようとすると、「現状凍結!!」と声がきこえると同時に、氷の柱が二人の間を挟んできた。


このタイミングだと、せいぜい、かすり傷程度にしか切れない、いったん距離をおくか、と少女が思い、距離をとろうとした瞬間、ガガガガガガガガ!!! 何かが、氷柱の氷の柱を削り砕く音がした。


氷柱は自分の出した氷の柱が砕かれているのを見て初めは、セーラー服の少女がしたものだと思った。しかし、すぐにそれは違うと分かった。


距離を置いたセーラー服の少女は目を見開き「これは」と驚いた。


 少女がみたものは、目の前にいる闇、そして、その右腕、もはやうでと呼べるのか見たこともない光沢をした鋼の建物や、鋼の塊が氷柱の氷の柱を砕いていた。






な・・・んだ・・・・これ


 異変に気付いたのは、セーラー服の少女が斬りかかろうとした時だ。体の奥からズギン!!と何か拒絶反応が起こった。その後、氷柱の『現状凍結』が発動した時に、右腕が疼きだした。


 何だ? と思った瞬間、右腕が、グニャッと何か意思を持ったように変形したかと思うと、あっという間に大きな鋼の塊となり、氷の柱を削りとばしていた。


闇は、自分の腕から鋼の塊が生えてきていることが信じられなかった。






「これは・・・・・・・」氷柱は、闇の右手から鋼の塊が出てきた瞬間を見ていた。あの、みたこともない光沢をした鋼、黒腕の能力は特殊な鋼を生み出す能力だと氷柱は習っていた。しかし、氷柱が考えていたより鋼の規模も広い、これが黒腕の、いや、『ワールドアパート』の正体。と氷柱は確信した。


 一方、闇は、自分の右半身がやたら重いことに気が付いた。重い、体が動かない。


 そして、その様子を見ていた、セーラー服の少女は、「どうやら、自分の力をうまく扱うことができていないようですね、その右腕、もらいますね」と言うと、その場にあった何個かの小石を切断し水に変えた。そして、そのまま、刀に帯びさせた、すると帯びた水は、シユウウウウウウウウウウウと空気を斬るくらいいきおいよく刀の部分を回り始めた。闇はその時、少女の刀の持ち方に違和感を覚えた。


(なんだ!? その持ち方!?)


 少女は両手で刀の鞘を持ち、体がねじれる体制を取っていた。


「一ノ型『しめ鯖』」


突然、少女の刀の刀身から薄い水が覆った。そして少女が刀を構えた態勢で切ろうとした時、「う・ご・けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」闇は無理やり、右手を動かした。すると、右手についてある鋼の塊が次々と分裂して少女に向かっていく、が少女は回転してその鋼の塊を次々と刺身を切るように易々と切断していき接近してくる。


どうする?どうする?このままだと斬られる、なんとかしなくては、と闇は焦る。縮め、とにかく縮め!! と強く念じていると、急に、鋼の塊が消えた。


そして、ちょうどセーラー服の女が次の鋼の塊を切ろうと大きく刀を振り上げて、がら空きの状態だったので、そのまま飛び込んだ。


「ナイスタイミングだ」


「なっ」速い!? セーラー服の女が驚いていると、「おらぁ!!」黒腕のナックルが彼女の腹に衝撃を与えた。


 氷柱は、目の前に起こったことが信じられなかった。突然柱の下を覆うほどの鋼が消えたかと思うと、闇が少女に攻撃をしかけていた。あの夥しい量の鋼が一瞬で黒腕の中に収まりきった!? それよりも闇さんは、黒腕を操っている?


 少女は、自分がさっきまで、鋼の塊を切断していたのに、いきなり、黒腕を操っているような闇の姿に驚きを隠せなかった。


「あ、なた、その右腕を」


「完全に操れる訳じゃねぇが、とりあえず、これで、お前と戦えるようになったってわけだな」闇はニッと笑った。


なんなんだ、この人間は。セーラー服の女は理解できなかった。まるで黒腕がついたことを喜んでいるみたいだからだ。大体の人間は自分の腕が得体のしれないものになると、自分の腕をいつ人を殺してもおかしくないと恐れたり、疎ましくおもったり、自分が人間じゃないものになってしまったなどと思うものだと分析していたが、目の前にいるこの女は、まるで、黒腕が出てきたことを新しい玩具を手に入れたように無邪気な笑顔をしている。


「分からない、人間じゃなくなっているかもしれないと言うのに、なぜ貴方は平然していられるの? 自分が怖くないの?」


闇は黒腕を握りしめながら言った。


「別に、人間であることにそこまでのこだわりはねぇよ。それにさっきいったろ、お前に言いたいことがあるって。その能面、台無しにしてやるよ、もう喜怒哀楽全部、彩らせられるとおもうから覚悟しろよ」






『さっきいったろ、お前に言いたいことがあるって』言いたいこと? まぁ、そんなことは、考えなくていい、私は、目的を果たせず生きてしまった私は、残された私の使命を果たすだけ。


「よーし、ちょっと試して見るか、前々からやってみたかったことがあるんだよねぇ、加減は難しいかもしれないけど」闇は、そう言うと自分の指をポキッ ポキッと鳴らしはじめた。なにをするつもりだ。少女が、そう思っているといきなり闇は、「せーの!!!!」と掛け声を出し、地面を思いっきり黒腕で殴りつけた。 


これは・・・・・・まずい!!少女は、一気に闇に接近した。その直後、さっきまで少女がいた地面から、鋼の柱が勢いよく飛び出してきた。


「さすがに、ばればれだったか、よくゲーセンかなんかでこう言う必殺技のやつがいたからな」


「大体、その行動を見れば次に何が起こるかは、予測できます……よ!!」


少女は、刀で切りつけてきた。闇は、黒腕でおさえる。


ガキィィィン と鈍い音が柱の下に響き渡る。


やはり硬い、『しめ鯖』や『梶木』じゃないと対応できないのか。少女がそう考えていると、闇は突然「なぁ、お前の刀、柄の所に『音斬』て書いてあるけど、ひょっとして、その刀の名前か?」


「だとしたらなんですか」闇が聞いた意味が少女には分からなかった。闇はニッと笑い「よし、決めた。まず名前からだな。お前の名前は『音斬 小夜子』にしよう」


「!!」闇が言った名前が、今は亡き研究者と同じだったことに小夜子は驚いた。


ふいに、小夜子の背中から、衝撃が走り出す。


一体何が、小夜子は痛みで片目を開けながら後ろを見るとそこには、先ほど生やした後ろにある鋼の柱から、何個かの塊に分裂して、少女の方向に飛んできていた。


まずい、この状況、小夜子は、とつぜん後ろから攻撃されて大きく体をのけぞらせた。


言わば、無防備な状態にあった。


「隙だらけだな」そう言うと、闇は、少女の右脇腹に強烈なナックルをしかけた。


「ッグ!!」少女の体は、野に吹き飛ばされる。この時、少女は、違和感を覚えた。


もし自分が、逆の立場にあったら間違いなく心臓を、切りつけたり、首を切断したり、一閃と貫いたりする。さきほどからの戦闘から、目の前にいる黒腕の女は戦闘なれしている。だから、この隙を逃すはずがない、なのに、なぜ右脇腹などと言う中途半端な所を狙ったのか。


「あなた、どう言うつもりですか」


すると、闇は、険しい顔をして「自分が何をするために生まれてきたとか、何になるために生まれてきたとか、他人に決め付けられて、それを受け入れて能面みたいな表情しているのがきにいらないんだよ、だから」そう言うと、闇は少女に指を指し、「まず、名前からだ、お前は『DALLS』じゃねぇ、お前は、『音斬 小夜子だ』」


 名前? 殺さない? 何を言っているんだ、この女は、何であの人と同じようなことを。


「名前なんて、何か意味があるの?」


「あるに決まってるだろ、自分が何者かを認識できる」そう言う闇の目は、どこか初めて自分と会話してくれた恩人に重なった。そしてその目は真っ直ぐと少女を見つめていた。


「あなたは、なんで」その瞬間だった。川原の排水溝からブワッ!!! と黒い何かが、闇たちの辺り一面を覆いつくした。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る