二度目の破局


歌子と話してみるしかなかった。これまでとは違って,怒ったりせずに,丁寧に歩みかけてみることを心掛けた。


勇気を出して,

「「気遣いを通り越して,無理して付き合っている。」と言ったが,本当にそう?」

と尋ねてみた。


これに対しては,「言ったかもしれないし,言わなかったかもしれないが,言ったはずがないと思っている。」


つまり,覚えていない。まあ,酔っ払っていたから,無理はないと思った。しかし,「そう思っていないよ。」とは,言ってくれなかったことが引っかかった。自分が実際どう思っているか,はっきりとは何も言ってくれなかった。


「じゃ,忘れたらいい?」と訊くと,

「よかったら…。」と返事が来た。


これも,冷たく感じた。


はっきりと,私のことをどう思っているか訊いてみることにした。


すると,「冷静ではないが,いい人だと思っている。」

とまた物足りない返事が来た。


「じゃ,嫌いとかじゃない?」

と言い方を変えてみた,


すると,歌子は

「疑う余地ある?」

と返事した。


疑う余地がなかった,このことは訊かないというのに…やっぱり,歌子はこれまでのことに対して,全く自覚がない模様だった。


この日は,この辺にして,また少し時間を置いてから,また連絡してみた。


今回は,質問責めせずに,自分がお産後,奏と歌子と再会して,感じて来たこと,悩んできたことを言葉遣いに気を付けながら,綴った上で,付き合いを続けたいのか,もういいのか,尋ねてみた。どちらでも,私は,尊重するとはっきりと言った。


歌子は,これに対して,

「悩ませてしまって,悪かった。過去のことについて話すのが好きじゃない。時間も費やす。だから,不本意だけど…。


これまでの中国語教師は,みんな私の中国語学習を応援してくれた。でも,あなたは,好んで中国語を話してくれなかった。

私は,あなたに教えてもらったおかげで,ネイティブのように成長したと自慢したいし,あなたを誇りに思いたい。」

とまず,一通目の返事が来た。


この返事は,私が大喧嘩してから,ずっと歌子に対して抱いて来た疑問を肯定する内容だった。私のことが好きじゃない。大事じゃない。悪く言えば,利用したいだけだ。個人としてではなく,「外国人」や「中国人」という一括りで見られている。やっぱり,「娘みたいに思っている。」とかは,嘘だった。これで,確信した。


でも,たとえ自分の利益のためでも,この町に来てから私のために奔走し,何度も困った時に助けてくれて,子供が産まれても私の子育てについての悩みに耳を傾けてくれた歌子とは,縁を切りたくない。私だって,意識していないだけで,色々と恩恵を受けているはずだ。なら,歌子の気持ちを受け止めるしかない。


一つだけ見過ごせなかったのは,私が意地悪で,好んで中国語を話してこなかったと思い込んでいるところだけだった。そう思われている以上,気持ちよく付き合うのは,難しいと思った。そこだけは,きちんと説明し,私なりの理由があったと納得してもらった上で,「これからはあなたに合わせるよ。」と伝えようと思った。


歌子からの返信は,予想内のことだったし,悔しくて,虚しい気持ちはあったものの,少しもイライラしていなかった。丁寧に,これまでの私の歌子に対する接し方は,意地悪のつもりはなかったことを説明し,返事として送った。


ところが,説明が長くなってしまい,歌子は,頭に来たようで,

「ごめんなさい。あなたの返事を読まずに削除した。読むつもりはない。」

という内容のメールが届いた。


私は,このメールを読んで,ずっと保っていた平常心や冷静さがどこかへ飛んでいってしまった。


「そういうことなら,友達ではないので,さようなら。色々とお世話になりました。」

と私が打った。


歌子も,これに対して,

「お世話になりました。ありがとう。」


おしまい。


感情的になっている時に,決めたこととはいえ,これでいいと思った。自分のことを悪く思っている人とは付き合えないし,話を聞いてくれないからどうしようもない。これ以上,歩みかけようとしても,時間の無駄だ。そう思った。


ところが,歌子は,その後も,私のSNS投稿に反応し続けた。これは,気になった。どういうつもりなのだろう…?


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