漬物は塩漬けに限る

 店内から漏れてくる笑い声と塩味の効いたナッツをつまみにハイボールを飲みつつ、グラスに入った酒に頭の中で語りかける。


 今週は仕事でこれをしたんだ。上司から落ちてくる案件が細かくて、しかも多くて処理が大変だ。同じ部署にいる奴に仕事を投げつつ自分でも色々とこなしたんだが、やっぱり来週までかかりそうだ。そういえば三年前に入ってきたあの子が可愛いな。あの子のフロアに行く時、いつもにこやかに「お疲れ様です」って挨拶してくれるんだよ。何もないさ、年齢が違いすぎる。目の保養みたいなもんだよ。そういえば去年やめた同期のあいつは元気だろうか?確か大阪に帰ると言っていたが。


 帰ってくる返事はないが、グラスの中で光る氷を見ながら頭の中でまとまりもない投げかけを続ける。


「お待たせしました、お漬物になります。焼き鳥はもう少々お待ち下さい!」


 やはり漬け物は早い、スピードメニューを一品頼んでおいて正解だった。店員に礼を言いつつ、ハイボールのお代わりをお願いして、路地を少し見回してみる。


 路地なだけあって女性が接待してくれる店の看板が多い。ちらほらとスナックやバーも混じっているようだ。そういえばこの路地を通るのは初めてじゃないだろうか。いつもは少し大きい通りしか通らないから、意外とこういう穴場的なお店は知らないことに気付いた。こういう店に出会える機会があるなら、細い路地を歩いてみるのも悪くはないだろう。


 割り箸を割り、漬け物を一切れ、口の中に放り込む。塩漬けだ。塩漬けは大好きだ。漬かりすぎず、浅漬けよりは漬かっていて、水分が程よく抜け野菜の味を存分に感じつつ飲み物が進む程度に塩味が効いている。


 …そういえばさっきから塩味の効いているものしか食っていないなと気付き、口元に笑みを浮かべながらハイボールを飲んだ。二杯目のハイボールも空になってしまったが、元気な店員がすぐにお代わりを持ってきてくれた。


 忙しい客ですまないね、このグラスと、あと一杯で帰るから許してほしい。そう頭の中で店員に謝罪しつつ、新しいグラスに口をつけ、あることに気付いた。



 ……焼鳥も塩味にしてしまった。

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