最終話・閃光のタケシ⑧と……

 ここはリユツーブ王国の王都にある教会。


 本日はここで一組のカップルが目出たく挙式を執り行うことになっている。そのカップルとは言うまでもない。勇者こと『閃光のタケシ』と王女の『聖女リン』の二人だ。


「いやあ、良かったあ。これで念願の結婚ができるよお。」


「タケシ様、私はこの時をどれほど待ち侘びたことか……。」


 教会にはリユツーブ王国の全市民が勇者と王女が愛を誓う合う瞬間をまだかまだか、と固唾を飲んで待ち侘びている。


 それにしてもタケシが服を着ている姿は違和感しか感じない、もう脱いじゃえば良いのに。


「タケちゃん!! 俺っちの盗賊団総出で今回の結婚式、お祝いするぞ!! 野郎ども、俺たちの下着コレクションを掲げるんだ!!」


 この日のために、わざわざ国境を越えてまで他国の義賊団がやってきている。総勢100名、彼ら全員がその手に貴族から盗んだパンツを掲げている。


 この光景に涙を流すタケシ、汚物を見るような目つきで睨むリン。新郎新婦の心情は、この時すでに亀裂が走っていたらしい。


 ワーロックよ、ここはコインランドリーではないのだぞ?


「「どうも!! ラムー&カジットです!!」」


「ラムーさん、今日はタケちゃんの結婚式だから髪のセットが完璧じゃないですか?」


「カジットさんは……あなたの方は焼き鳥みたいなセットですね?」


「やめて下さい!! 鳥は良いけど、ネギとセットにするのだけは止めて? ネギが嫌いだから。薬味扱いされるのが嫌いなんです、お願いだからブレイクさせて!?」


「そう言えばカジットさんも結婚したいんじゃないですか?」


「したいですね!! だから、この前結婚相談所行ったんですよ。それで相談員に好みの女性のタイプを言ったんですけどね……。」


「黒柳徹子でも出てきました?」


「だからネギは嫌いだって言ってるでしょ!? 玉ねぎヘアーは止めてくれません!?」


 この日のためにと秘蔵のネタを披露するお笑い芸人のラムーとカジット。彼らもまたタケシを喜ばせようと教会の空気を温めようとしている。男の友情ここに極まる。


 これまた『男の象徴』を掻きながら爆笑するタケシ、そしてお笑い芸人に嫉妬の目で睨むリン。この二人には埋めがたい心の溝が存在するらしい。


「ふむ……、これタケちゃんはワシの息子であり義弟か。結婚式が終わったら、とっておきの店に行こうかの。若い子がたくさんおる店じゃぞ?」


 実の娘の結婚式に不謹慎な発言をする先代国王のシヨミ。ダラシない顔を晒すタケシの横でリンがその手にバトルアックスを握りしめていることは触れないでおこう。


「シヨっち。今度浮気したらハラワタを引き摺り出して、ソーセージにしちゃぞ? にゃは♪」


「かあちゃんが作るソーセージは美味いからの。お店の女の子に差し入れちゃおうかな?」


 この先代は何も分かっていないらしい。後日、王宮で何者かの手によって血だらけで横たわるシヨミが発見されるわけだが。勿論、その運の良さもあってシヨミは奇跡の生還を果たすわけだが、今はこれ以上の詮索はすまい。


「タケちゃん!! 午後からは私との側室結婚式だからね!! きゃは♪」


 タケシの本日のスケジュールは午前がリンとの正室結婚式で、午後からまあちゃんとの側室結婚式となっている。


 魔王軍でも人間の世界でもアイドルたるまあちゃんの結婚式には、アイドルオタクと元・魔王軍のモンスターたちが詰め寄ることになるわけで。


 モンスターの大群が王都に詰め寄るのだ。王都の市民は魔王軍が復活したと大騒ぎとなる事になる。王都が混乱の渦に巻き込まれる瞬間である。


 この時、『魔王少女』がここぞとばかりにゲリラコンサートを開催することで、更なる混乱を生み出すことは容易に想像できよう。

 

「それでは新郎・タケシ、新婦・リン。互いに永遠の愛を誓いますか?」


 教会の神父がタケシとリンに愛の誓いを確認する。


 長い間待ち侘びた瞬間に涙するリン、そして鼻くそを穿っているタケシ。タケシが鼻くその付いた手でリンのベールを持ち上げて愛の接吻をしようとした。


 ……その時だった。


 教会の正門が突如として豪快な音を響かせながら開いた。そして、そこには一人の女性が立っていた。


「タケシイイイイイイイイイイイ!! 私にだけマイホームのローンを背負わせておいて、一人で幸せになってるんじゃないわよおおおおおおおおお!!」


「え、サチヨ!? どうしてここにいるんだよ!?」


 タケシに鬼の形相を向ける女性。それは日本で彼を引っ叩いた嫁さんのサチヨだった。彼女はタケシが通うスナックのママとの浮気に怒りを覚えた。そしてタケシの頭部を灰皿で強打したのだ。


 その結果がタケシの転生に繋がるわけだ。


 だが彼女はタケシが死んだことで購入したばかりのマイホームローンを一人で背負うことになり、彼に強烈な殺意を覚えてしまったのだ。


 気が付けばサチヨは自在に時空に穴を開けられる能力者となり、このリユツーブ王国へと足を運んでいたわけだ。


「え!? タケシ様、あのシワが凄い中年女性は誰ですか!? って、ええ!? タケシ様!?」


「ぎゃあああああああ!! 痛い痛いって、お願いだから髪を引っ張らないで!! 話を聞いてくれよ、サチヨってば!!」


「問答無用!! マイホームのローンを払うために日本へ帰るのよ!!」


 英雄への雑な扱い。そして愛する人への侮辱。果てには命を預けた仲間に対する非道な行為。この結婚式に参加していた人々はサチヨへ強烈な殺意を覚えるわけだが。


 それでもサチヨは怯まなかった。


 それはサチヨがこの中で誰よりも強かったからだ。


「あんたら、人様の家庭事情に首を突っこんでくるんじゃないわよ!! 死に晒せええええええええええ!!」


 サチヨの放った強烈な魔法で吹き飛んでいく人々。それは元・魔王のまあちゃんや先々代魔王のかあちゃん、果てには勇者パーティーだったワーロックたちも例外ではなかった。


 荒れる結婚式、騒ぎ出す人々。もはやサチヨが世界の魔王と言っても過言ではないだろう。


「サチヨ、ちょっと!! 髪を引っ張らないで!! 禿げちゃうから!!」


「タケシ!! あんたは元々ヅラでしょうが!! ほら、帰るわよ!!」


 サチヨはタケシの髪を鷲掴みにしながら、目の前に手をかざした。すると目の前の空間に穴が開く。その穴はどこに繋がっているのだろうか?


「げええ!! この穴の先に35年ローンを組んだマイホームのリビングが!! 俺は帰りたくないんだってば!!」


「男らしくないわね!! とっとと入りなさい!!」


 タケシのケツを思いっきり蹴るサチヨ。その光景に唖然とせざるを得ない教会に集まった人々。


 勇者が元の世界に帰還する瞬間だった。


 そしてタケシはリビングに押し込まれた瞬間、またしても頭を強打してしまったのだ。


「ぎゃあああああ!! 頭を打った!! 死んじゃうよおおおおおお!!」


「死んだら、あんたの生命保険でマイホームのローンを払うから問題ないでしょうが!!」


 サチヨはタケシがマイホームのリビングに移動したことを確認して、彼女自身も日本への移動を開始する。そして、教会に背を向けた状態で彼女はリユツーブ王国の市民に一言だけ言葉を残すのだった。


「あんたたち!! うちの旦那を誘拐した事、覚えてなさいよ!! その内、訴えてやるんだから!! ふんっ!!」


 徐々に狭まる空間の穴。人々の心はサチヨに対する圧倒的な恐怖に埋め尽くされていま。覆しようの無い絶対的な実力の差。彼らは開いた口を塞ぐことができなかった。


 これが勇者・『閃光のタケシ』の物語の全てである。


 この後、日本に帰ったタケシは再び社畜としてストレスを溜め込む人生を送ることになる。彼の死因はストレスだった。


 そしてその死を契機にタケシは再び、このリユツーブ王国の地に足を踏みつけることになる。


 まさに勇者誕生のリサイクルである。


 春は桜舞う季節。花びらが風を誘ってサイクリングに興じるも、気付けば風は遥か先を走る。花びらは命尽きるも、風がその香りを運んで生命に春の訪れを知らせてくれる。無駄な命など一つもないのだから。


 リユツーブ王国にいつの日か再び闇が訪れようとも、一人の勇者が現れる。


 彼は鼻くそを穿りながら悪に立ち向かうことだろう。


 そして悪を倒せば、彼は呪われることになるわけで。


 その呪いとは……。


 完

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【完結】 18禁勇者 〜英雄になった男は呪われようとフルチンでハナクソをほじりながら国民に愛され続けて逞しく生きていきます〜 こまつなおと @bbs3104bSb3838

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