三兄弟の願い

松長良樹

三兄弟の願い


 これは随分と昔の話です。


 はるか南方に古代ペルシャ帝国みたいな国がありました。そこに三兄弟が住んでおりました。別に特別な兄弟ではなくごく普通の兄弟です。


 兄弟はあまり裕福ではなく、どちらかというと貧乏のほうでした。


 三人ともまだ若くお金がないのでまだ妻もめとれませんでした。この時代の適齢期は現代よりかなり早かったのにです。


 長男のハラームは背が高くおおらかで実に前向きな性格をしていました。


 次男のマハドはひょうきん者で人当たりが良く、明るい性格をしていました。


 末子のアリーは信心深く、真面目でその上誠実な性格をしていました。


 ある時兄弟が三人で船の掃除の仕事をしていますと、古びたランプを船底で拾いました。


「兄貴、このランプが魔法のランプだといいな」


 次男のハマドが冗談まじりでそう言いますと、それがなんと本当の、そうです。かの噂に高い本物の魔法のランプだったのです。


 なぜ本物か分かったかというと、長男のハラームがランプを擦りますとそこに魔人が現れたからです。魔人は太いよく通る声で言いました。


「お前達の望みを三つ叶えてやろう! なんでもいいからの三つの願いを言ってみろ」


 兄弟は嬉しくなり、それぞれが一つずつ願いを言うことにしました。


 長男のハラームは即座に有り余るほどの財宝が欲しいと言いました。次男のハマドは少しだけ考え、王の息子になって一生何不自由なく遊んで暮らしたいと言いました。


「よかろう。して、お前は何が望みじゃ?」


 魔人は中々答えないアリーに問いただしました。すると末子のアリーは、空恐ろしいという顔をして魔人に耳打ちで自分の願いを告げました。



 魔人が表情も変えずに頷くと、兄弟三人はそれぞれの笑顔をつくりました。


   ◇  ◇

 

 それからかなり経ったある日、次男のマハドが思い出したように言いました。


「なあ兄貴、あの魔人の願いの話はどうなったのだろう? 俺は王の息子になんかなっていないし、兄貴だって無一文じゃないか。前と何にも変わらないな」


 するとハラームは苦笑いして言いました。


「結局、三つの願いなんて魔人の嘘なんだ。俺は端から信じていなかったよ」


 そしてアリーが言います。


「魔人の与太話なんて信じてどうするのです。僕は人の何倍も働いて、きっと心体ともに裕福な者になって見せます。まあ見ていてください兄さんたち」


 兄たちはちょっと驚きましたが、少し笑ってアリーの肩をたたきました。


「アリー、お前を見直したぞ。その意気だ。アリー」


 三兄弟は笑いましたが、実はアリーが魔人に告げたのはこんな願いだったのです。


「なんと嘆かわしい兄たちの願いでしょう! 身勝手過ぎます。そんな願いが叶えられたら兄達に人間としての成長など望めるものですか。きっと二人は屑のような人間に成り下がるでしょう。それは神への冒涜でもあります。即刻その願いを却下してはいただけませんでしょうか。どうかお願いいたします」


 それを知らず仲の良さそうな三兄弟はしばらく笑っていました。




               了

 



 

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三兄弟の願い 松長良樹 @yoshiki2020

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