第26話 童に初めて近づいて

しぃん…。


昼間の人里だと言うのに静まり返っている。

しかし耳をすませば遠くで沢山の人の声がしていた。


今は童もその集まりに行っていて、童の家付近はだあれもいない。


こっそり…。


誰もいやしないが、ゆっくり気づかれぬ様背中を丸めて歩く。


童の探している板は、山の方から覗いて知っている。確かに二日月の様な模様があった。あれを見た時、なんだか違和感を感じたのだが、すぐに忘れてしまった事を思い出す。


「まぁいいか」

そう言って、破片を探す。

まだ見つかっていないのは、丁度二日月の真ん中部分だ。色合いより形で探した方が良いと、覗いていた記憶を頼りに探す。


しかし見つからない。


童も山ギツネもじゅうぶん探しただろうに、それでも見つからない物なのだ。それでも何故か、俺は見つけられる!と自信に満ちてやって来た子供天狗。


まだ来たばかりだ、と自分を鼓舞して探すのに夢中になる。


「だあれだあ?」


可愛らしい声がした。

不意に声をかけられ、そちらを向けばなんと童が立っているではないか。


子供天狗は振り向いた体勢のまま固まってしまった。


「なあにしとるんだ?」

子供天狗の手が土に汚れているのを見て、童はまた話し始めた。

「なんだ、この前の手伝ってくれた子か?どうしたんだ、その面。あれか、今度のお稲荷様の祭り用か?可愛らしいな」

童の言葉を紐解くに、どうやら山ギツネと間違えている様だが、それを訂正する言葉など出てこない。


考えた挙句、頷いた。


「そうか、おいらも祭りには行くんだ、その時はまた会おうな」

童はそう言うと無邪気に近づいて来る。

「二日月を探してくれとるんじゃろ?どうしても真ん中がなくてな、諦めて村の大人に渡してしまったんだ。見つかったら、またつけてくれる言うもんじゃからな」

そう言うと、子供天狗の手を取って、土を払ってやった。

「こんな汚して悪い、ありがとうな。今日は朝露がひどかったから土がまだ湿っとる」


童は喋り続けているが、聞いているのにちゃんと聞けない。子供天狗は頭が真っ白になっていた。


ずっと遠くから覗いていた童が、目の前にいて、更に自分の手を握って、自分を労っている。信じられない出来事を前に、どう反応する事も出来ずにいた。

「おいらも探そう。もう少ししたらまた向こうに行かんといけん。それまで一緒に探してくれるか?」

お天道様かと思うくらいに輝いている目で話す童に、子供天狗は頷くしか出来なかった。

「ありがとう、でもどうしたんだ?喉の調子でも悪いのか?」

板の破片を探しながら聞いてくる。

全く喋らない事を不思議に思った様で、これに対しても子供天狗は頷く事しか出来なかった。

「そうか、無理して喋らんでいいからな」

まるで幼子に言い聞かせる様に言う。

童は優しい。


板を探しながら、童の顔を覗く。

一生懸命な姿に顔。

いつも遠くから覗いていた童と全く同じはずなのに、間近でみるのは全然違う。

なんと輝いているのか。


早く破片を見つけて、喜ばせてあげたい。喜んだ童

を見たい。


童が村の集まりに戻った後も、しばらくそこで破片を探していた。


おそらく見つかるまでそうしているつもりだっただろう。

しかし突然山ギツネがやって来て、帰らなければいけなくなってしまった。


「お前は一体何をしとるんか」

土まみれの子供天狗を見て、思わずそう声かけた。

「…」

童とのやりとりの流れで咄嗟に声が出ない。

「探し物は見つかったのか?」

確認する様に聞いてくる。

「まだ見つからん」

「もちろん巻物の事じゃろな」

「…!」

巻物の事などすっかり忘れてしまっていた。

「お前は一体何をしとるんか」


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