第25話 時代が違えば大問題

子供天狗はずっと童を見ている。

普通、気になる相手ならば話しかけたりするものなのだろうが、彼は人間と話す事にひどく抵抗があった。


"俺は人間と話が出来ない"、そう思い込んでいる節がある。


初めての鬼とも、喋る狐とも話しは出来るのだから、相手が人間であっても当然話せると思うのだが、彼にとって人間というものはかなり特別で、それが出来ないのであった。


そもそも彼には天狗像がある。

"人間を助ける存在である天狗"だ。


そんな存在である天狗が簡単に人間と話てはいけないのである。彼の天狗像に反するのである。


人間は天狗にまつわる場所から天狗に助けを乞い、それを受けて天狗は助け、時には悟られぬよう助ける。


そもそも一体、童と何を喋るか。

喋ることなど何もない。


だから山ギツネに何度言われようが童に近づいた事はなかった。


それであるのに急に近づこうと思ったのは、遠くから見過ぎて妄想が過ぎてしまったのかもしれない。

遠くにいるのに天狗の力で童の声を聞き、まるで近くにいるかの様な錯覚に陥っている。


話さないといいつつ、やはり話したいのだ。


それを本人は全く気づいておらず、童に近づく村人を敵対視する始末。恐ろしや。


「…。」

村の様子は朝から変わりない。

童は家の中にいて、何かしている。


そう、最近は家の中を見通す事も出来る様になっていた。


かなり集中してやっと見えるのだが、童の様子を知れるとあっては自然に集中できる。


童はどこからか何かを持って来ては、それを天へ掲げている。

手に何があるのか見たくて目を凝らす。


う〜ん、見えない!


目を細め思う。

目を細めて見れるものでも無いのに、ついしてしまう。


何とか見たい、知りたい!


童は天に掲げたまま揺れており、少し経ってから踊っているのどと気がついた。


踊りながら手に持ったものを振っている様にも見える。


しばらくそうして凝視していると、童の手をまるで近くで見ている様に見る事が出来る様になった。

「ぉぉ」

思わず感嘆の声をあげる。


子供天狗は、"童を見たい"、"童を知りたい"、といった欲望から、天狗としての力をも成長させていた。


そんな邪な気持ちを、"童を助けたい"という気持ちに変えて認識しているのだから恐ろしや。


童が持っていたのは、鈴だった。


しかし音がしない、中に玉が無いのだ。

童はそれでも楽しそうなので、良い。


子供天狗はそれを見てどうにも耐えきれず、筒の道具をしまい走り出した。


童の役に立つ事をしに行く、と。




鬼丸は岩山をすっかり崩して、自身が成した偉業を眺めていた。

崩すのに一体どのくらいかかっただろうか、これで旦那どのも喜ぶに違い無い。


近くの川に流れる水の音がする。


その音で喉が渇いている事に気がついて川辺へ向かう。

静かに流れる川が目に入ってから少し下り、敷き詰められた砂利を超えてやっと水にありつけた。


ごくごくごく…


ごくごくごく…ぐぶぅっ…ごくごく


あまりに勢い良く飲んだ為、一度むせ返る。

あぶない、あぶない。

しかし通るのはただの川の水だというのに喉につかえてしまう事が不思議だった。


ゆるく曲がって流れる川。

むせ返る自分。


「…」


近くに、鬼丸と同じく水を頂こうとやってきた小鳥がいた。

小鳥は、鬼丸に取って食われる心配などせず近寄って来ては、わざと隣で水を飲んでいた。

「おはようさんだぁ」

鬼丸は小鳥に話しかける。

小鳥は応える様に何か鳴いている。


鬼丸の近くにいれば外敵から身を守れると知っているのだ。


岩山を崩したので、次の場所へそろそろ向かわねばならない。

旦那どのはかなり急ぎなのだと言っていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る