『捨て勇者』の美味しい処方箋?

草詩

魔王、勇者を拾うの巻

「すっ捨て勇者、だと!?」


 薄暗い森の中で、魔王はおののいた。金髪の子供が籠に入れられて、捨てられている。そのステータスには、『勇者』と、明記されていたのです。


「よし食べよう」


 魔王は言いました。

 魔物たちには信仰があったのです。


 強き血肉をその身の内に取り込めば、力を得ることが出来ると。


 その発言に周囲は恐れ戦きます。

 いくらステータスに勇者とあっても、現在はただの赤子です。


「生でなんて野蛮です魔王様」

 そういう問題ではありませんが、側近Aはすぐに料理人を呼びました。


「まずは血抜きをして解体し、熟成させた方が美味しいでしょう」

 そういう問題でもありませんが、側近Bはすぐに猟師を呼びました。


「「ゲテモノはちょっと」」

 呼ばれた料理人と猟師はドン引きです。


 人間との確執はいつの世にもありましたが、その恨みが積もった現代。

 血肉を身に取り込むという信仰もあってか、もはや誰も人間を食べようとはしません。


「そんな勿体ない。余はどうすれば良い?」

 魔王はとても悲しそうです。


「ではこうしましょう。強くなるのを待つのです」

 側近Cが前に出ます。


「まず普通の魔族として育て、成人した時にこう告げるのです。お前は選ばれし勇者である。魔界に仇名す人王を倒す事が使命だと」

「なるほど?」


「見事人王を倒して戻ってくれば、それは極上の強さであり、血肉にするに値する存在になったと言えます」

「なるほど。ならば余が育てよう。余こそが最強であるからな」


 魔王は即断即決です。

 籠に入っていた金髪の子供を抱き上げ、愛おしそうにあやします。子供もきゃっきゃと楽しそうで、二人の相性はとても良さそうです。


 ひとまず話がまとまって、側近A~Cと料理人&猟師も一安心。

 こうして。この世界に新たな勇者伝説が始まったり始まらなかったり、なんとも奇妙な親子関係が始まったりするのでしたとさ。


 ――めでたしめでたし。

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