第4話 甘える猫かぶり
「ねこ……」
すくすく成長されているアルバート様はすでに私より背が高く、腰をかがめて私の額に額をぶつけるほどに顔を近づけてきて、人でも殺しそうなほどの険悪さで言った。
「猫じゃねーよ。お前、ふっざけんなよ」
「ふざけたわけではなく、純粋に猫に見えました」
焦ったせいで、間違えた。ここは嘘でも「心配しました」と言う場面だった。
アルバート様は突然手を振りかざして、私の栗色の頭髪の上にがつっと振り下ろして爪を立てた。
「顔中ひっかき傷だらけにしてやろうか? 俺はしつけのなっていない猫だからな」
「存じ上げております」
誠に遺憾ながら。
私は手にしていたアルバート様の下着を差し出した。
「私の六歳下の弟でもこんなことしません。お片付けあそばせ」
白い歯をちらりと見せて、爽やか好青年風に笑ったアルバート様は、気前よく言った。
「持っていっていいぞ。替えはたくさんある」
ぶちり、と私の中でまた何かが音を立てて切れる。
「物は大切になさってください! まだまだ使えますよこれ!」
「そんなにじっくり見たんだ?」
もし私が猫なら、ぶわっと毛が逆立っていたはず。
尻尾引っこ抜くわよ、この駄猫……!!
(だめ。ムカついてもそんなこと言えない)
相手は王子様。私は教育係。心を強く持って、愛情深く優しく接しなければ。
気を取り直そうと軽く咳払いしていると、アルバート様に一冊の本を差し出された。
「俺、勉強は事足りてるから、年端もいかない女の助けなんかまったく必要としていない。だけど実は寝る時に本の読み聞かせをしてもらわないと、うまく眠れないんだ……」
三歳下のくせに十六歳のレディを「年端のいかない女」扱いしてきた。何か言い返してやろうかと息巻いてから、私は王子様に初めて頼られすがられている事実に気付いてしまった。
「読み聞かせしないと眠れない?」
そう、とアルバート様は頷く。
私は、差し出してきた本を受け取った。読んで欲しい本なのかな? と。
【アーヴィン夫人の情事】
(こ、これは私も題名しか聞いたことがない、全編ほぼ濡れ場の官能小説……!)
頬がかっと赤くなるのを感じながら顔を上げると、アルバート様は実に麗々しく微笑みながら、甘えるように言って来た。
「読んで?」
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