第九回 西沢美南

 恐らく彼女ほど可哀想だと作中にて言われ続けている女もそうそう居ないだろうと思う。自分が不憫属性が好きだと気が付いたのは、某国擬人化アニメの登場人物にときめきを感じたからなのだが、まあその話は置いておく。書けば何となく長くなる気がするので。


 詳細は省くものの、改めて自分は不憫属性が好きだ。不憫かつ自分がそうだとわかっていないタイプのキャラクターにひどくときめく、そんな性格の悪い人生を送らせてもらっている。何というか、自分より不幸な人生を歩んでいるキャラクターを見ると自分はまだマシだと思えるから不憫が好きなんだろう。我ながら浅ましい理由である。


 前回もう書かないかもと記述させてもらったのだが、何となく彼女の話なら書けそうだと思ったので、今回は第七回に書いたジャックの相方である西沢美南について書いていくことにする。


 一応原点回帰をテーマに掲げつつ、彼女の紹介を軽くしていく。

 彼女――西沢美南はメイキングしてからつい去年の九月頃まで故人設定だったのだが、ひょんな事から生き返り現在番外編のヒロインとして活躍してもらっているミス不憫である。どういう事か全く分からんという方も居るだろうが、実は作者である自分自身がよくわかっていない。気が付いたら生き返っていた、そんな感じなのである。多分某ハリウッド映画の多重人格ヒーローに感化されたからかも知れないが、真相は定かではない。

 元々自分は彼女の事が嫌いだった。今でも好きか嫌いかと聞かれると言葉を濁したいくらいには複雑な感情を彼女に抱いている。何故なら、彼女は自分がドン引くレベルの毒親だから。

 わずか五歳の養子に生んだばかりの赤ん坊の面倒を全て任せ、自身はあちこちから金を借り怪しげな研究に没頭する彼女はどうしようもない母親だと思うし、その点においては同情の余地もなく主人公達に糾弾されてもやむなしだと感じる。

 しかし彼女もまた、自分の親に愛されず放置され育った過去がある。金には不自由しなかったらしいが、愛情は注いでもらえなかった時点で彼女も被害者なのだろう。

 ジャックはそんな彼女にひどく同情し哀れんでいた数少ない人物だ。主に彼女を可哀想と言っているのもこの男である。正直理解し難いが、結果的にジャックのおかげで西沢美南の事を理解出来たと言っても過言ではない。その点ではこの男に感謝している。


 というのも拙作『リバースエッジ』にて全ての元凶として彼女をメイキングしたが、自分は長い間彼女の事が分からなかったし、悪事に加担した挙げ句に自ら破滅したのかがどうしても理解できなかった。頭の出来は悪くなく、状況を冷静に判断できる観察力もある筈なのに。そう自分は彼女の上辺だけを観察し、しかし彼女の内面は深く知るつもりもなく、ただのフィクサーとして彼女を見ていた。

 そんな自分にジャックはずっと美南は可哀想な女だと言い続けていたのだ。一応彼の言うまま彼女に纏わる話を幾つか書いたが、それでも自分は彼女の内面に関しては分からずじまい。こんなに書いても片鱗すら掴めないのだから一生彼女の事はわからないだろう、そう思っていた。

 しかし自身が極度のスランプに陥り何も書けないと蹲っていた最中、ジャックに先導される形にて一本の番外編を何とか書き上げたとき、そこでようやく彼女の内面に触れストンと納得した自分に気が付いた。


 親から愛されず、秀才であるが故に周囲から孤立し、誰にも必要とされないから死にたいと思いながら、それでも自分の生きた証を残したいと必死に足掻いた女。それが西沢美南であり、ジャックがずっと長いこと自分に可哀想な女だと言い続けていた理由であったのだ。


 いや、ここまで巧妙に隠されてればいくら作者でも分からん。今でも当時のことを思い返す度にそう思うのだが。けれども偶然が呼んだ奇跡でもあると自分は考えられるのだ。

 何事も自分の思う通りにならないからこそ面白いのだろう。それは普段の生活でも、創作に対しても同じであると断言できる。

 なので現在番外編の方で彼女には散々恥ずかしい思いをしてもらっているが、これだって作者である自分の思惑からは大きく外れているのだから人生何が起こるかわからないものである。これだから創作はやめられない。


 そんな訳で、やたら毒舌な割に気まぐれな優しさで人を翻弄する彼女に思いを馳せつつ、今回は筆を置かせてもらう。次回は未定だが、気が向いたら書かせて貰うのでよろしく。

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自作品のキャラクターを掘り下げながら、当時の自分を振り返るエッセイ 菱川ナカヒト@底辺なろう民 @matuhitsu09

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