おにごっこ
「さて、これならどうでしょうか」
みゆきはアサルトライフルのスコープを覗きこむ。大学の構内を探し回って、サバゲ―サークルの部室から調達したものだ。もちろんモデルガンだが、精密機械であるドローンを破壊するのならばこれで十分だろう。
(しかし、なんだったのでしょうね…………)
不思議な現象だった。あの不吉を纏ったような黒髪少女。彼女がそれらの現象を意図的に引き起こしているというのならば。
(狙撃なら、効くかもしれませんね)
モデルガンとみゆきの腕が合わされば、殺さずに行動不能にさせることも容易い。構内三階から見晴らしの良い窓を陣取って、狙撃の体勢を取っている。そして、先にスコープに映ったのは黒髪少女だった。
引き金に指を沈める。狙いは足。僅かな段差が邪魔だ。あと数歩前に進むのを待つ。
「今」
ほんの少しの震えで引き金を引いた。銃口にブレはない。
少女の右足に命中、するはずだった。
「あれ、どこ――――「ここ」
背後から影が落ちる。小銃の銃身を握って、まるでバッドのようにフルスイング。砕け散った小銃と破裂した弾丸。それでもみゆきに致命傷を与えるには至らないが、衝撃はしっかりと伝わっている。
つまり。
(落ちる!?)
三階の窓から投げ出された。みゆきは袖に忍ばせた鎖鎌を窓枠に巻きつかせ、落下を阻止する。忍者同好会の部室から拝借したものだった。宇宙戦争部から拝借したレーザーガンで、追撃されないよう牽制する。校舎の壁を貫通した。
「え、これ本物なんですか!?」
驚きに目を見開くと、ターゲットドローンが近付いてくるのが視界に入った。別方向からはアタックドローン、既にサブマシンガンの狙いをこちらに定めている。さらに見上げると、窓から乗り上げて小銃を構えるハート。
「正念場、ですね⋯⋯!」
モデルガンの拳銃を取り出し、アタックドローンのプロペラを一枚集中攻撃する。空中でバランスを崩したドローンを背に前進、そのまま校舎の壁を三角跳びの要領で跳び上がる。
「⋯⋯⋯⋯なにを」
アタックドローンの上に飛び乗ったみゆきは、無理矢理サブマシンガンの照準をハートに向けた。弾丸の雨は、やはり窓から身を乗り出したハートの手前で止まる。
「ターゲット破壊が勝利条件、ですからね♪」
アタックドローンを足場にみゆきが跳んだ。同時、プロペラが歪んだアタックドローンを掴んで、そのまま投げつける。冷静にアタックドローンに銃口を向けたハートだが。
「⋯⋯見え、ない」
そう。
投げつけたアタックドローンは目眩し。ターゲットドローンへの射線を遮り、別方向からの射撃を行うにしても、狙いが定められない。
と、思わせればそれで十分。たった数秒稼げれば、それで。
みゆきは空中のターゲットに腕を伸ばす。このまま拳で破壊する。
「セット――――歪曲」
が、歪んだ空間が拳を遮った。
そして、自分の肩に乗り、小銃を両手に構えるハートに絶句する。ほぼほぼゼロ距離の連続発砲。落下が始まる前には、ターゲットドローンはすっかり蜂の巣になってしまった。
(今の、もしかして⋯⋯⋯⋯?)
空間を跳躍する弾丸。それだけではない。
見えない対象を確認し、移動、射撃する。その一連の現象に、とんでもない想像が頭に生まれる。時間を止めた、そんな埒外の魔法を。
「まさか、ね⋯⋯⋯⋯」
それなりの高度まで跳んでしまったが故、落下ダメージもそれなりのものになる。それで壊れたりはしないだろうが、それなりの破損は覚悟しなければならない。ぎゅっと目を瞑る。
「⋯⋯⋯⋯セット」
何秒待っても落下の衝撃はない。それどころか、奇妙な浮遊感。恐る恐る目を開ける。
地面に激突する直前、まるで水面を漂うかのようにぷかぷか浮いていた。その隣にハートがふわりと降り立つ。ワンピース型の喪服の裾が捲れないように抑える姿が優雅だ。
すっと手を差し出される。
「あ、ありがとう⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
無視された。
ゲーム終了のアナウンスが鳴った。黒の少女はペコりと会釈するとそのまま転送される。
「ひょっとして⋯⋯⋯⋯ただ口下手なだけでしょうか」
どこか釈然としないものを感じながら、みゆきも元の世界に転送される。
♪
13番、おにごっこ
トロイメライ・ハートvs RHevo.みゆき
→勝利者、トロイメライ・ハート
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます