こてしらべ
ゲーム→https://kakuyomu.jp/works/1177354054934585268/episodes/1177354055128211890
対戦相手→https://kakuyomu.jp/works/1177354055367557009/episodes/1177354055367558264
何もない真っ白な部屋、無機質な音声。ハートは寝っ転がりながら雑誌サイズのルールブックをぱらぱら捲る。
「ルール、難しい……」
覚える内容が多い。人間だった頃から出不精だった彼女は、地図の読み方も慣れていない。
そんなこんなで三十分。
「でも。このルール、なら……私が、負けること、ない」
もし、警戒することがあるのであれば。
(エンドフェイズが、負けた)
想像の埒外、その可能性への警戒を。
♪
どこか地方にポツンとある大学。中庭に向かい合って、二人は立っていた。ゲーム開始のブザーが鳴る。
ハートはまず対戦相手を観察した。身長は自分より少し下、色白で黒のショートヘア、革ジャンとジーンズの組み合わせに隠し武器の気配はない。
「……あんまりじろじろ見るのは失礼ではないでしょうか?」
ハートは無視した。相手も自分を観察している。ただ、ふんわりと纏う、大人の女性的な魅力に眉をひそめた。
「まだ成長期なのだから、気になさらなくてもよろしいですよ」
目敏い。視線を探られた。対戦相手の名前は『みゆき』といったか。見た目はただの人間だった。両手に嵌めた皮手袋を見るに、高月さんのような近接戦タイプか。
「………………………………」
ハートは無言のまま右腕を前に上げた。空中から音もなく出現した小銃を握る。
「
発砲。案の定、反動で華奢な身体がふらつく。
それを見て、みゆきは体を開いて射線から逃れた。銃口と目線の動きで軌道は予想しやすい。そして、反動でふらついた隙は大きい。そこを突くために地を蹴って。
カァン、と甲高い音。
銃弾がこめかみに命中した。
「…………?」
衝撃でみゆきの身体が横倒しになる。跳弾、のはずはない。ここまで開けた場所だ。トラップを仕掛ける猶予もなかったはずだ。着弾箇所をさすりながらみゆきが立ち上がる。
「……………………どうして」
だが、疑問の声を発したのはハートの方だった。間違いなく必殺の一発だった。回避されるなり、防がれる可能性は考慮していた。しかし、ここまで見事に喰らって、全くのノーダメージという展開は考えになかった。
(…………いや、さっきのは、金属音)
人間に見えて、人間ではない。やはり油断ならないものだ。
「――――考え事とは余裕ですね」
その懐にみゆきの掌底が伸びる。空振り。素早く引いたみゆきの後頭部に冷たい感触。
発砲音。
みゆきの頭部ががくんと前に倒れる。が、それだけ。当然のように回し蹴りを返される。
「ッ!?」
みゆきの蹴りが、ハートの横っ面の手前で静止した。確かに振り抜いたはず。だが、まるでそこに壁でもあるように蹴りが止まる。
「……………………」
ハートの足払いに体勢を崩す。回って後方に距離を取る。小銃の銃口を向けたままハートは動かない。
「お互い、攻め手に欠けるというところでしょうか」
みゆきがちらりと視線を上にずらした。全長50cmほどのヘリコプターが、2mほどのワイヤーで生きた猿を引っ張っている。ターゲットドローン、あれを破壊すれば勝ちだった。
「結構、高度がありますね。貴女は飛べたりするのですか?」
「……………………」
ハートは答えない。キィキィと猿の叫び声だけが響く。ハートが小銃を上に向けた。
「さすがに届くわけが――――」
発砲音。それも三発。
どういう原理か、ワイヤーが千切れ飛んだ。落下する猿が、地面に激突する前に不可視のトランポリンで跳ねる。駆け寄ったハートがその腕に抱きとめた。不吉に揺らぐギョロ目が猿を覗き込む。
「…………大丈夫?」
殴られた。
キィキィ泣き喚く猿がそのままどっかに逃げ出す。きっと森に帰って元気に暮らすだろう。肩を落とすハートが周囲を見渡す。みゆきも、ターゲットドローンも、姿を消していた。
「…………しまった」
開始五分経過。全長1mほどの四連プロペラ式のドローンが出現した。開けた場所に棒立ちになるハートに、サブマシンガンの掃射が迫る。
「セット――――歪曲」
空間がたわんだ。大量の銃弾が絡めとられ、歪みがゴムのように反発する。
「遅延」
アタックドローンの動きが明らかに遅くなる。そこに、弾かれた弾丸の嵐が炸裂した。爆発、炎上。爆風で飛んできた金属片は、やはりハートの真ん前で静止する。
「うん、大体、分かった」
ゲーム内容も。対戦相手も。
だから分析の時間はもう終わり。ハートが左手にも小銃を握った。
「じゃあ……詰めようか」
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