吹雪

「遅かったな、さあ、始めるぞ、ゆき」

「はい」

古い民家の屋根の上で、二人の雪女は力を強めた。風、雪はどんどん強まっていく。気温はどんどん下がっていく。

一気に雪が積もっていった。人は吹雪で外に出れらない。通勤のため、用事のために自動車で外に出た人たちは、自動車が雪にはまって動けなくなった。道路にはそんな車が列をなした。

時間が経つにつれて、降るのは雪だけではなくなっていく。ひょうだ。氷がそのまま落ちてくる。家のガラスに大きな氷があたった音がした。どこかから悲鳴が聞こえた。

「暖房が効かない…」

そんな声がした。それもそのはずだった。すでに温度は零下30度を下回っていた。


雪女たちがいる民家に近づく人影が見えた。こんな寒さと天気の中、人が出歩くこと自体危険だ。

「あつきさん…」ゆきのつぶやきは吹雪で誰にも聞こえない。母親の雪女は気づいていないようだった。

ゆきはそっと屋根から降り立った。ふらふらになりながら歩いているあつきのもとへ降り立つ。どこかでけがをしたのか、頭から少し血が出ている。

「大丈夫ですか」それは変な質問だ。この異常な寒さと吹雪はゆきのせいなのだから。そして、最終的にはこのあたりを氷に閉ざされた場所にしようとしているのだ。

「ゆき…やっぱりここにいたか」あつきはかすれた声で答える。顔は青ざめてゆきよりも妖怪のような顔をしていたが、ゆきの顔を見て優しい笑顔を見せた。

ゆきは、理由はわからないけれど、その顔を見て、涙が出そうになった。

氷の融ける音がした。


雪女はゆきがいないことに少し遅れて気づいた。下を見ると、男と話しているのが見える。あの男だ。やはり、先に殺してしまうべきだった。

「ゆきっ!何しているんだ!」

ゆきははっとして自分の母親を見た。あつきが雪女とゆきの前に立ちはだかった。ふらふらで血を流している男が自分の前に立っている。その熱を帯びた目に雪女は頭が痛くなった。

「お前だな、ゆきにこんなことをさせているのは…」かすれているが怒りのこもった熱量のある声が雪女は心底不快だった。

「そうだよ、私はこの子を作ったんだから。文句あんのか!」雪女の叫びは氷の粒となってあつきを襲った。あつきは思わずしゃがみこんだ。

「あるよ…」

「は?」まだあきらめていないのか。雪女のいら立ちは高まるばかりだ。

「文句があるっつってんの。親だから、何やってもいいわけじゃねえだろうが。ゆきが自分で決めろよ。お前がしたいのはこんなことなのか?俺にはお前がそんなやつには思えないんだ」

ゆきの心が揺らぐ。自分で決める…?私がしたいことって…。

「ゆきは私の分身なんだ。お前に何がわかるんだよ!殺せ、ゆき、お前の手で」

「殺してみろよ!」ゆきの方を振り向き、その熱い目でじっと見た。

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