あつき

こんな雪の日に店の前に立つ人がいる。客だろうか。でも、こんな時間に?

「お客さんですか?」

一応声をかけてみる。薄い和服のような恰好。変な恰好、というよりも、寒くないのか、という疑問が浮かぶ。幽霊なのか。よくよく顔を見てみる。

「…ゆき」

「どうしたの?川崎さん」つかささんが中から出てきた。つかささんはこの店の店主である斎藤さんの孫娘だ。少し遠いが俺の親戚にも当たる。たまたま手伝いに来ていたのだが、すごい雪で客も来ないから失敗だった、という話をしていたばかりだ。つかささんは雪の中の彼女を見て、その異様さに顔色を変えた。

「なに、あの子」

その声と同時に風が強くなり、外は吹雪となり始めた。

「ゆき…だよな」

「えっ、ゆきちゃんって、前話してくれた、ちょっと不思議な女の子だよね…」

「はい、でも、なんで」

戸惑う俺たちに雪の中の彼女は顔色を一つも変えない。何が起きているのかわからないが、呼び止めないといけない気がした。俺が出ていこうとすると、店主の斎藤さんが突然大きな怖い声で俺を止めた。

「行くな!」

「えっ」驚いた俺とつかささんはその場で固まる。ゆきはそのまま吹雪の中へ消えていった。

「おい、騒がしいと思ったら…、あれは妖怪だぞ」斎藤さんは大きなため息をつく。

「妖怪?じいちゃん、本当…?」つかささんが尋ねる。

「ああ。あれは人間とは一緒になれないやつらだよ。不用意に近づいちゃだめだ。な、バイトくん」俺の方を見る。斎藤さんは年を取っている分、その言葉には説得力がある。だけど、このままではいけない気がする。心の内側にいる自分が叫んでいる気がする。ゆきを止めろ、と。

「最近、異常に寒いと思っていたが、あいつらのせいかもな」斎藤さんはつぶやいた。

「そうなの?なんでそんなことをするんだろう」

「さあ、住む場所も違うし、分かり合える相手じゃないからな」

俺は、気になって仕方がない。ゆきはいつも通り表情を変えなかったが、何か伝えたいことがあって俺の前に現れたのではないのか。

「すみません、ちょっと俺、外出てきます」

「おい、馬鹿…」斎藤さんの声が聞こえたが、もう、近くに会ったマフラーだけつけて走り出した。ゆきがいる場所は、きっといつも立っていたあの古い家のあたりだ。最近は姿を見ないから気になっていたけれど。きっとそこに行けば会える。

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