働くって、人が動くと書く

サーム

第1章

 僕は、有名私立大学を卒業して、地元の全然有名じゃない中小企業の食品メーカーに就職した。もちろん、数少ない新入社員の中では、ダントツの学歴で、入社式では、代表あいさつも任された。本社での研修から、1ヶ月後の配属先赴任までは、余裕かまして、完全に舐めていた、会社も、同僚も、上司も、そう「仕事」というものを、もうわかったような気になって、舐めきっていた。


 赴任先は大阪営業所。強面のやり手所長からは「お前が期待の星か?」と冷やかされ、直属の上司の係長は「仕事は、教えてもらうもんやないで、自分で覚えるんやで」となんかちょっと偉そうに言われて、心の中で舌を出しながら「はい、頑張ります!」と作り笑いで答えていた。


 そして「まず電話当番やな、ちゃんとできるようになったら、担当持たせてやるから」と言われ、しばらくは、営業所で電話当番をすることになった。「しょうもないなぁ、早く担当持たせてくれよ! お前らなんかより売り上げ上げてみせるから」と思いながら、毎日毎日嫌々仕事をこなしていた。そんなある日...。


「えっ! ほんまですか! まだ届いてない? なんでやろ? すんまへん! すぐお届けします!」電話を切った係長が、血相を変えて所長へ報告に行った。


「何! なんでや! A社さんの宅配の注文品が届いてへんやて? 一昨日か? 電話で注文来るんやったなぁ? おい! 新人! お前注文受けたんちゃうんか?」


僕は、なんか嫌な予感がしながら、係長と所長の話を聞いていたが、所長に大声で聞かれて、そういえば、なんか係長が「A社の注文だけは絶対忘れんと処理してくれよ!毎週水曜に来るから」とか言ってたっなぁと思い出しながら、「やっちまったかな?」と自分のミスが原因であると確信した。でも、「新人やし、ミスぐらいすることもあるで」というような軽い感じで考えて、「謝ればすむ」と鷹を括っていた。


「お前! なにしてくれてんねん! 最悪やわ!」と怒鳴っている係長の激怒した顔を見ても、なんでそんなに怒ってるのかが、全くわかっていなかった。その後、所長と係長は、A社さんに謝罪するため、営業所を飛び出して行った。


 







 


 

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