第11話 縛りが多いゲーム……クソゲーでは?
そして戻ってくる。間時さんに提案した時間まで。
ただ、ここで変に条件をつけない。無駄に制限をされるのは嫌がるだろう。というか、マガツと同じだと考えれば面倒くさいのは嫌うはずだ。
だから……
「それじゃあ、今からスタートってことで」
「オッケー。じゃあ――」
ここで、一歩引く。
すると、面白そうに目を細める……やっぱり。ここで変に隙を見せたら殺されるってわけか。
一瞬も油断のできない相手というのは大変だな……
「――妨害をしていくけど、とりあえずは風花を迎えに行く?」
「そうだね。風花さんの話を聞きたいところだし、風花さんの前ではちゃんと猫をかぶるんだよね?」
「まあそうだね。いきなり豹変して騒がれても面倒だし」
「なら、尚更会いに行かないとね。君には出来る限り猫を被ってもらわないと辛いからね。案内をお願いしてもいいかな?」
その言葉に、いいよーと軽い返事をして歩き出す。
……正解を引けたということで安堵しそうになり……いやいやと気を引き締める。ほら、目の前でこっちを見て惜しいという表情をしている間時さんが見てるじゃないか。
『ひひ、犯人を巻き込んでゲームにする……考えたなぁ? 他人の事情をおもちゃにして、殺人鬼と遊ぶ探偵ってわけだ!』
(……そうだね。そのとおりだよ。でも、これが一番被害が少ない)
さて、思考を止めずに考えなければ。
推理に集中しすぎると、間時さんに殺される可能性があると考えると本当に大変だ。
「ああ、そうそう。探偵クン」
「……なにかな?」
「制限時間はどうする?」
……あ、忘れてた。
「制限時間ね……決めてなかった」
「じゃあ一時間後ね? けってーい」
「えっ、一時間は流石に……ああ、そうか……うん、分かったよ」
「察しが良いねー。ま、ゲームの体裁が整う程度に加減したから感謝していいよ? でも、誰が犯人か分からなくても犯人当てをやってもらうからねー」
微笑みながら僕の顔を覗き込む。
……やっぱりマガツに似てるよこの子。ああ、女の子に覗き込まれるシチュエーションなんて昔の僕なら羨ましいから変わってくれって言うだろうな。
でも、殺人鬼って聞いたら逃げるだろうな……昔の僕、安心してくれ。何も羨ましくないぞ。
『ん? 素直に提案を飲むんだな。一時間なんて無理だってゴネると思ったんだが』
(これは間時さんの妨害だよ……今から一時間以内に、ここからツテもなく情報を探して犯人を当てる。まあ、ギリギリ可能かも知れないってラインだね……)
設定してない僕が悪い……というわけでもないな。多分、適当に自分が飽きない程度の時間設定に縮めてくるつもりだったろうし。
「分かった。それでいいよ」
「うんうん、素直なのはいいことだねー。じゃあ、そろそろ猫かぶるかな」
そういうと、一瞬で雰囲気が元のお嬢様に変わる。
……本当に人間なんだろうか? 案外、マガツみたいな邪神が人間に成り代わってるとかないだろうか……ないだろうなぁ。
「あ、彩花先輩! 探偵さん!」
「……これが遅れた理由なんですね」
そして、スポーツサークルで勧誘攻撃にまだ断りきれないでいる風花さんを見つけるのだった。
「――ということで、探偵さんが一時間後に全員を集めて解決出来るって言ってくださったんです」
「そうなんですか……! やっぱりお祖父様が呼んでくれた探偵さんは凄いです!」
「あ、あはは……」
さて、なんとか風花さんを開放してからサークルに戻る道中に、当然のように一時間以内の解決についてを周知されていく。
……彼女に妨害は自由であるといったからには、僕から反故するわけにはいかない。まあ、殺されるよりは優しいものだ。
さて、風花さんからは情報をもらった。とはいえ、集まった情報としては変わらない。何が盗まれているかという要素だけだ。
「とはいえ、もう少し情報が欲しいけどね。だから……」
「だから、私がお手伝いをしようと思うの。風花さんには申し訳ないけどね?」
「えっ、彩花先輩が!?」
風花さんが驚く……まあ、そりゃそうだ。
私生活が謎に包まれた大学のアイドルともいえそうな存在が、探偵のお手伝いをしたいと自分から言いだしたのだ。
「駄目かな?」
「あ、えっと……その……私が頼んだ事なのに、彩花先輩のお手を煩わせるのは申し訳ないと言うか……」
「ふふ、気にしなくてもいいよ。私も探偵の仕事って気になるから。それに、風花ちゃんはまだ絵の勉強があるでしょう?」
「そうですね……それじゃあ、お願いします!」
そう言ってお辞儀をする風花さん。
それに対して、笑顔で頷く間時さん……こうしてみれば仲良さそうなのに、彼女を殺す未来もあると考えると……複雑な気分になるなぁ。
そして、サークルに戻り……さて、情報をまとめよう。
(おそらく、犯人はこのサークルの中にいるね。まず間時さんの嫌がらせをする以上は、何かしらの理由が必要になる。その中で、わざわざ製作予定の画材をこの雑多な美術サークルの中で選んで盗むのは関係者じゃないと難しいだろうね)
『ひひ、確かに俺様から見てもゴミだらけにしか見えねえからな』
(だから、犯人はこのサークルメンバーの誰かで……被害者の中にいるはずだね。風花さんのものを盗まなかったのは……多分、彼女がどういう行動を取るか分からなかったからかな?)
なにせ、部員メンバーの被害に心を痛めて相談し、探偵を連れてきてしまうような行動力やツテのある子なのだ。
下手に被害を出してしまうと、どうなるか分からないという犯人の心理もあるのだろう……それを考えると、結構姑息ではある。
と、そこで間時さんは僕だけにしか聞こえないように聞いてくる。
「探偵クン、それでどうするのかなー?」
「……妨害はしないんだね」
「ゲームなんだから、ちゃんと勝ちの目がないとゲームにならないでしょ?」
……やっぱりこういう、妙な部分でフェアなところとかはマガツに似てるなぁ。
「とりあえず、このサークルメンバーに話を聞きたいね」
「なら、聞いていいのは冬希だけね? それ以外には聞くのは駄目ってことで。もしも聞くならゲームは終わりだよ」
突然そんな事を言われる。
……妨害はありだが、僕がルールを破らないようにゲームの体裁を人質にしてきたか……呑まざるを得ないけども……
「……なんで冬希ちゃんだけ?」
「ん? ああ、一応冬希となら一緒に聞き込みに行ったからね。そこで関わりがあるし、情報源にしていいのはそこだけって縛りが面白いかなって」
ニヤニヤと笑っている彼女を見て……ああ、なるほど。
そうだよな。確かに情報を聞ける相手を制限するのはいい手段だ……それも、冬希ちゃんは興味のあることは覚えているだろうが……興味がない部分はすぐに忘れそうだ。
(つまりは、これも妨害の一環か……)
『ひひ、他人が見てると直接的な手段は取れねーってのによくやるな。このねーちゃん』
(全くだよ)
マガツに同意しながら、それでも今のこの瞬間だけは殺人が起きる心配なく聞き込みをすることが出来る。
それにほっと安堵して……そんな事で安堵したくなかったなぁと思うのだった。
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