第45話 彼の夢。私の夢。

 教室の中で、ひときわ目立たない存在がいた。

 彼の存在は、クラスでは少しだけ、異様な扱いを受けている。

 だけど、不思議とその姿は私にとって、気になって仕方がないものだった。


「タピオカって知ってますか? すっごくおいしいんですよ!」


 私はいつもと変わらずにクラスメイトと話をする。

 いつもと変わらない日常のはずなのに、今日だけ私の目には、彼の姿がはっきりと見えていて、理由のわからない焦りを感じてしまう。


「あははー、ユズは本当に、ちょっとズレてるよねー」

「そうそう! タピオカについてそんなに幸せそうに話す女子、ユズしかいないって!」

「ユズ! 俺らとトランプで遊ぼーぜ!」

「いいですね! みんなさんもどうですか?」


 私の問いかけに、バラバラに話していたクラスメイトがみんな、私のところに集まってくる。


「ユズがやるならあたしもー!」

「面白そうじゃん!」


 クラスが、私を中心に動いていく。


 クラスが、私によって作られていく。


 だけど彼だけは、外側にいて。


 まるで、世界の端を歩いているように、誰からも注目されない彼を見て、思う。

 私は、本当にこの世界を望んでいたのか。

 私は、本当に自分が中心の世界をみていたいのだろうか。

 どこかで、世界から見放されているような、妙な感覚が、私の中にはあった。


 気が付いたんだ。世界の中心は。現実にはなくて。まして、こんな夢の世界でもなくて。

 空さんのいる世界が、私にとって本当の現実なんだ、と。

 私の世界は、彼を中心に動いていたのだ、と。


 私の望みは、リア充JKになることでも世界の中心になることでもなくて、もっと単純に。

 空さんと共に現実の世界を好きになることだった。


「空さん、一緒にやりましょう!」


 ふと、私は彼の目の前で手を差し伸べていた。私にとって世界の中心である彼を、暗闇でひっそりとしていた彼を、もっと明るい、太陽のもとへ連れ出すために。

 いいえ。


 一緒に、みんなで、太陽のもとへ向かうために。


 正直、不安だった。怖かった。また、手を取ってもらえなかったらどうしよう。そんなことを思っていた。


 だけど彼は、その手を――。




 ――その手を、強い力で掴んでくれたんだ。

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