第28話

「ハナ! ウミ姉! ダイチ!」


 俺は公園に着いてすぐ、三人の名前を呼んだ。夜だからあまり大声は出せなかったが、それでも必死に名前を呼ぶ。


 いつもうるさいくらい意地悪なことを話しかけてくる。


「ウミ姉!」


 あいつのおかげで、なんだかんだ放課後や朝公園に寄るのが楽しくなる。


「ダイチっ!」


 俺にいつも元気を与えてくれる大切な、大切な幼馴染。


「ハナっ……!」


 三人からの返答はなく、一〇分が立った。

 移動時間を含めると、タイムリミットまであと一〇分くらいといったところか。


「ユズの次は、お前らまでいなくなっちゃうのかよ……」


 この公園には、思い入れがある。

 ハナとウミ姉と話す場所のひとつで、ダイチとも出会って、たまにみんなでスポーツをして。

 周りの人からは一人で遊んでる変な奴と思われているだろうけど、俺にとって空想の世界での遊びは、現実と変わらないくらい楽しくて、気持ちがいいんだ。

 実はこの公園を通ると高校へは遠回りになる。それでも俺は、小学生の頃から通っているこの公園が、大好きだ。

 ブランコしかない寂しい公園だが。

 うん。紛れもなくこの公園は、俺にとって特別なんだ。

 きっと三人が消えたのは、今日この公園に足を踏み入れなかったから。

 ずっと、ユズのことを引きずっていた俺が、そのことばかりに囚われて、三人の存在すら消そうとしてしまったから。

 俺の思考ひとつひとつで、俺の友達は消えたり現れたりする。

 現実に関わるとか、関わらないとか、そういう問題じゃなかった。

 俺は、ここ最近のウミ姉との会話を思い出す。


『(空くん、落ち着いて、気持ちはわかるけど……)

 うるせえよウミ姉。

 俺が話しかけてほしくないときは出てくるなって言っただろ。

(でも、このままじゃ空くん……)』


 それ以降の会話は、記憶になかった。

 俺は、俺を心配してくれたウミ姉に対して、拒絶をしたんだ。


 いつしかウミ姉が話していた。

 ――何よりも空くんに消えてほしくないって思われてるなら、私たちは消える理由がないもの

 逆を言えば、俺が消えてほしいと少しでも思えば、彼女たちは……。


 いるのが当たり前で、気が付かなかったんだ。

 いるのが当たり前で、大切にしていなかった。

 こうなったのは全部、俺が、俺の…………!


「う……ああ……っ」


 体の奥底から、後悔と、自分に対する怒りがこみあげてくる。

 顔を殴ってやりたい、首を絞めてやりたい。

 自分が憎くて、嫌になって。殺したくなって。

 それでも俺は、たった一人の家族の森子さんを、悲しませないために、生きるしかないんだ。


「……また来るよ。みんな」


 俺は、流すだけ流した涙の痕を拭って、公園の敷地から出た。


「――ダメっ!」


「……っ」


 後ろから、聞き覚えのある、愛くるしい声が聞こえた。


 ハナ――。

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