第2話  花火

 今日の東京はやけに狭苦しく感じる。憂鬱な一日の始まりだ。今日も大学には行かなかった。人通りの多い通りをゆっくりと歩く。砂漠を歩くように。僕を急かすように空から水が降ってくる。砂漠なら幸いだが、ここは紛れもない東京だ。もうやめにしようか。こんな生活。そう思いながらも暗い路地裏に落ち着く。ビルとビルの隙間から降ってくる雨は冷たい。東京のビルは僕の目には全て同じに見えて、無機質に感じる。それに対して、雨は生きてるようだ。死んだような僕を責める。雨は下界の人々にとって平等に降りはしない。 僕達のその時の気持ち次第でその雨の冷たさを変える。生きているように。僕にとってこのビルの隙間の路地裏は無機質と有機質の臨界だと思う。雨はしきりに強くなっていく。




 君は眠り姫だ。夢のない、つまらない世界から逃げるように君は眠ってしまった。

雷鳴の音が聞こえる。わかってんだ。疲れる、こんな世界は。死んだ季節に僕は取り残された。夏の足音は聞こえない。夏の匂いもしない。君が笑ってた夏はもう来ない。



 ふと、頭を上げると。雨が止んでいた。

ビルの隙間からは際限なく暗闇が広がっていた。もう夜か。音が聞こえる。雷鳴などではない。心に響く深い音だ。どこだ。

通りに出ると人がいつもより多い。また、聞こえた。深い音。どこかで聞いた音。

君と聞いた。見えた。音が見えた。

      花火だ。



    ここはつまらない世界で

     夢のない世界。 




  僕は臨界を歩く者。君と見た花火が

  蘇る臨界を好む者。

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