第3話 桜色の笑顔

ふわりと風が吹いて桜の花びらが教室に入って来た瞬間、僕は涙目の君に恋をした。


今まで特に何も感じなかった。

ただ大人しそうな女性だとしか思っていなかった。


いや、実はずっと好きだったのかもしれない。

僕の記憶は彼女で埋めつくされていた。


最初に見たのは入学式、ガチガチに緊張している彼女に興味を抱いた。


「緊張しすぎじゃない?ただの入学式だよ?」


打ち解けようと話しかけたが、言葉選びを間違えてしまったと思った。

だが、彼女は恥ずかしそうに笑っていた。


「私、引っ越して来たばかりで友達がいなくて、良かったら友達になってくれたら嬉しいな〜、なんて……」


彼女がそういったから僕は友達としてそばにいた。

その過程でよくからかわれたりもしたが、彼女は照れくさそうに笑うだけだった。


「私好きな人がいるんだ。」


夏祭り、わたあめで顔を隠しながら伝えられた時は驚いた。


そこから僕は自分の気持ちに気づきたくなくて彼女を避けた。


そこからの日々はとても苦痛で、

何をしても味気なくて、吹く風がとても冷たく感じた。


隣にずっといた彼女がいないのが寂しかった。


あぁ、なんでこの気持ちに気づいたのが今なのか。


今日は卒業式だった。

式は終わり高校の玄関でまばらに散る生徒を見つめながら僕ら2人、教室にいた。


「もう、話せないかと思ってた。」


「……ごめん。」


沈黙が流れる。


「今日で卒業、だね。離れ離れになる前にもう一度話したかったんだ。」


「あのね、私…」


彼女は目を伏せてから深呼吸をし、まっすぐに僕の目を見つめた。


「あなたの事、好きだったの。」


過去形の言葉が重く突き刺さった。


「両思いかな〜なんて、思ってたんだけど。やっぱり違うよね、ごめんね。私なんかと付き合ってるなんて思われちゃったの迷惑だったよね……」


「違う!」


咄嗟に出た言葉だった。

僕は手に持ってる筒を握りしめて言った。


3年間分の思いを込めて。


「僕も、君の事が好きだったよ。」


彼女はあの時のように恥ずかしそう笑いながら、静かに涙をこぼしていた。


今僕達は遠く離れた場所に住んでいる。


次第に連絡も取らなくなっていったが、僕は彼女に恋をして良かったと心から思っている。





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