第7話 策動―――ダーク・エルフの罠

オレは“その事”をノエルから直接聞き、「信じられない」―――と思ったが、しかし他のプレイヤーでもあるノエルがいる事自体は否定してはならない。

そう……とどのつまり、オレやノエル以外にも、他のプレイヤーはいるのだ。


しかも……恐ろしいことに“あいつ”まで―――!!


しかし今は、そんなことで頭を抱えている状況じゃない。

取り敢えずのところは―――この『魔王シェラフィーヤ』を自称する、少しばかり頭の残念な幼女の「お願い」を聞くことから始めなければならない。


そして―――襲撃から一夜明け、宿泊していた宿から野宿へと移ったオレ達は、朝の準備を終えさせたところで早速幼女エルフの「お願い」を聞くことにした。



「それ……で? 何なんだ、お前の「お願い」―――って。」

「ここは、だーく・えるふのくに……ここをおさめる、まおうさまにあいたいの。」


「お前……正気か? 第一この国の魔王様が、お前みたいなちんちくりんに会ってくれるはずが……。」

「あうことはできるの! たって、わたしとかのじょとは、したしいゆうじんどうしだもの……。  それにっ! わたしはちんちくりんじゃないの!!」


「はいはい―――分かりましたよ……。  なあノエル、お前はどう思う?」

「なんとも言い切れませんね……それにアベルも言う様に、一国の王様と一人の幼女が親友……だとの関係性も、眉唾ものです。」


「だーーーよなあーーーー……さぁて、これからどうすっか……。」

「おねがいよ……おねがいだってばあぁ……かのじょに、そうだんしないと……わたしは…………ッッ!」



私は、相当切羽詰まっていた―――

家臣の裏切りに遭い、魔王としての座位くらいも能力も剥奪うばわれてしまい、挙句の果てに牢獄に繋がれてしまった……。

今ここにこうしているのは、どうにか看守からの同情を買い、逃がしてもらったからにほかならない。

そう言えば―――私を逃がしてくれたあの看守は無事だろうか……

今になって、その事が頭に浮上してきた……


こういう事だから……なのかなあ―――……


私は口惜しさのあまり、涙を一粒こぼした…………



「泣くんじゃねえよ―――全く……相ッ変わらずガキってのは、泣きゃいいもんだと思って、ここぞとばかりに泣きゃがる……。」

「ごめん―――なさぁぃ……。」


「本当……不器用なんですからねえ―――あの人は。」

「えっ……」

最初ハナっから見捨てるつもりなんかないんですよ―――それこそ、最初ハナっから見捨てるつもりなら、ここまで付き合わないですってw」


        そうでしょう―――・・・・・・・


そん……な? 気付かれてた―――?

えっ、それじゃあ、彼と彼女は、最初から“私”だと認知してて……?

なんて憎らしい……けれど、これで私のはらも決まった。

この2人が協力してくれさえすれば、この難局も……



「おーい、そこで何油を売ってる―――行くんじゃないのか?」

「あっ、まってよ~すぐいく―――すぐいくからあ~!」


        * * * * * * * * * * 

どうにか城内へは、『魔王様にお目通り願いたい』との故事付けを経て入り込むことができた。

……が、そもそもの話になるのだが、一国の王が一般庶民みたいなオレ達に、そうそうお会いになってくれるのだろうか?

まあこの幼女の言い分の様に、この国……ダーク・エルフの魔王様と仲良しこよしだというのが、本当だと信じるしか他はないのだが……。


それにしてもなあ……確か、エルフとダーク・エルフと言えば…………



「お待たせをして申し訳ないな―――」

「えれん―――!」




彼女の名は「エレン」―――私と同じく、ダーク・エルフの国を統治する、『魔王』だ。

そして、私とエレンとは、長い付き合いもあり、互いの意思疎通も―――そしてお互いの国でなにをやろうとしているかも判っていた……から、こそ―――……

私は、私の窮地を、救出すくってもらいたかった……だけ、なのに―――


それは、ある者の手によって、阻まれてしまった。



「えっっ……ちょ、ちょっとなにするの?! はなし……はなしなさいよ!」

「止めとけ―――こいつは忠告だ。」


「えっ……でも―――」

「やはり思ってた通りだぜ。  なああんた、ダーク・エルフのお姉さんw 手前ぇよくそうした澄ました顔していられんなあ? 世界的な映画の賞の、助演女優モノだぜw」


「そん……なあ? でも……じゃあ―――どうして……」

「なぜお前に会ってくれたか……だって? そいつはなあ―――こういうことだよっ!!」



そういうと彼は……幼女である私の身柄を―――放り投げた……。

すると、、有り得ない事態が起こってしまった―――

そう……親友だと思っていたエレンが、私の身体を…………



「え……れん―――?」

「ちいっ! 幻術か!? しかしあの男の情報では、幻術を使える者など……」


……って―――? それはおかしいですねえ? まるであなたが……そう、ダーク・エルフの魔王であるあなたが、エルフの王国の“誰か”と通じ合っている―――そう言っているのと変わりないようですが?」

「何者だ! 貴様―――!!」


「我が名はノエル―――そしてもう一つの名は、『加藤段蔵』! 世には“幻術の王”と畏れられし我が忍道の奥義、篤と味わうがいい!!」



私が……いや、私の姿を模した“影”が、エレンによって斬り散らされていく中―――

私の側にいた忍の少女の、もう一つの名の由来が語られた……。


幻術の王―――加藤段蔵!

あれ程の精巧・精緻を極めた“影”を作り出せることこそが、本当の彼女の能力―――!


けれど……なによりショックだったのは―――



「なんでぇ……なんでなのぉ~―――なんで、えれん……あなたが―――」

「なあ……ダーク・エルフのお姉さん? あんたに一つ聞きたいんだが……そもそもの話し、“魔族”って一体何なんだ?」


「そんなことは知れていよう―――他の勢力を服従させ、従属させることこそが我ら魔族の本質! それをっ……!」

「魔王シェラフィーヤだけは、その本質から目を背けた……か? それのどこが悪いってんだ?」


「悪いに決まっているだろう!? 争乱ではなくむしろ平和を謳い―――その考え方は、我ら魔族の中でも明らかな“異端”なのだ!」

「(……)ク・ク・ク―――全くどうかしてるぜぇ……なあ~?ノエル…… この世界、このオレの性分にぴったりってわけだ!w」


「ヤレヤレ―――あなたって人は、本当にどうしようもないですねえ……『人中の魔王』。 ここで彼の国のために『オレがなにもかも護ってやる!』なんて言ったら、サイッコーに勇者してるんですがねえ……なのに―――そういえばそうでしたか、その二ツ名……英雄になり損ねた上に、魔に堕ちてしまった王―――自分の事を善く見せようとしたって、善く見せられない……不器用なあなたにはお似合いの名前ですよ!!」



アベルの……“もう一つの名前”―――それが『人中の魔王』?

聞いたことがないけれど、ノエルからの由来を聞くと、どこか納得をしてしまう私がいる……

そうだ―――この彼は、私の事をシェラフィーヤだと分かっておきながら、いまだに私の事を見捨てないでいる……見放さないでいる……!


私は、この時どこか、なぜ家臣たちが私の事を裏切ったのか、薄々ながら感づいてしまった。

私たちは“魔族”だ―――それは、どこをどう切り取っても、争乱に……戦乱に明け暮れるしかない、魔族なのだ。 だからと言って、休む間もなく争い続けていれば、いつかどこかで身体が疲弊してしまう……心が疲弊してしまう……だから―――だから……私は少しでも弱い立場の者達が、安寧に……そして安心に暮らせる世の中を作っていきたい……そう思ってただけなのに。


それにエレンには、その事の相談をいち早く持ち掛けていたというのに―――……

そして、快く理解を得てくれた―――ものとばかり、思っていたのに……


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