第6話 問われる兄妹仲

私が左手を拱くこまねくと、出てきた文字―――

そこには『アベル』と書かれていた。


アベル  ≪レベル999≫

HP:287542

MP:194102

STR:162453

VIT:294189

DEF:354163

INT:324065

DEX:368976

AGI:300498


一言で言うと“凄い”―――と言うものじゃない。

アベルの妹さんであるノエルも言っていたように、他の人達から『魔王』と呼ばれても不思議じゃないくらいだ。


それに……やはりこの彼―――アベルなら私の願いを叶えてくれる……

そう思い「お願い」をしようとしたのだが―――



「ねえ、ちょっと、あべる~~あべるったらあ。」

「うるせぇ……もう、好きにしてくれぇ……。」


「(……)“おとうさん”―――」

「は? なんん―――ですか?今の…… あなた、今までクズだクズだと思っていましたが、私と再会するまでとうとう外道にまで堕ちましたか踏み越えてはならない一線を踏み倒してしまいましたか??」


「バカ野郎―――ンなわけあるかあ~! 大体タイミング見て考えてみろ、たった数時間でここまで幼女まで育つもんかってなあ?!」

「そうはいっても……現実とゲーム内とでは、時間の流れ方が違いますしねえ~?」


「オレは無実だあぁ~! このガキが好き勝手にぬかしやがってんだあ~~!!」

「ええ~? ホントにい~? なら“あの人”の前で、言い切れますかあ?」(じと目疑惑の眼差し


「(ぐっっ…!)い、今“あいつ”の話しは出すな―――余計ややこしくなる……。」

「(……)まあ、私の方も巻き添えは喰らいたかないですからね、ここは不本意ですが言うとおりにしてあげましょう。」



我が妹ながら理解力が高くて助かるのだが……オレより偉そうな態度を取るので、いつか逆襲してやろうかと考えている―――と言うのは内緒だ。


それに、いつまでたっても森の中にいるというのは落ち着かなくて仕方がない。

今そうしているのは、ノエルを誘い出すためにそうしたまでの事―――

それに、オレがこの世界に初めて来た町にはもう居辛くなったので、取り敢えずのところは(気には食わないが)……近くにある、「ダーク・エルフの国」の町の一つに移動することにした。


            * * * * * * * *


ここはダーク・エルフ領内の町……なぜ私が自分の国の領内の町ではなく、別種族の国の町に向かうなど、その理由としては一つしかない。

それは、今の私の国で私は「お尋ね者」だからだ。


どうしてこうなってしまったんだろう……

私はただ―――平和に暮らしていたいだけなのに……

だから―――争いの火種にもなる、軍備の拡張も止め……どころか、縮小さえしてきたのに―――

なのに……どうして―――……




「まあ、安宿とはいえ、気が落ち着けるというのはいいよな。」

「そう言うのは自分のお金出してから言ってください。」


「ははあ~ん? オレに負けたヤツが、オレより偉っそうにしてんじゃねえーよw」

「くあ~~ッッ……ほんとに―――あなたって人は!!」

「あなたたちって……ほんとう、けんかばかりしているわねえ―――もうちょっと、なかよくならないの?」


「なれるものでしたらねえ? とっくの昔になっていますが、この男は実の妹に対してもこんなんだから、仲良くのなりようがないのですよ!!」

「……そのわりには、はなれないわよねえ。」

「離れたくても離れられない―――もしかしてノエルちゃん、オレに惚れちゃったあ?w」


           ――☆シュ  カン☆――


「ぬおおおッ! 手前ぇこの野郎、挨拶代わりに苦無投げるな!」

「あなたがバカな事をいうからでしょうがッ! 付き合いきれません、ちょっと出てきます。」



この兄妹……見てると本当に不安になってくる。

この先大丈夫なのだろうか―――と私は心配したが、そんな私の心配をよそに、陽が落ちる前にノエルは帰ってきた。


そして明日やる事の為に……と、早めに就寝していた時―――

何かの物音―――気配に私は目覚めた。

そして寝台で寝ている私に覆い被さってくるような大きな影に―――



「ひ……っ―――」

「起きたか。  ちょっと静かにしていろ―――」



あ、あ、アベル―――? が、どうして……

ひ、ひょっとして私を“夜這い”―――?



「あ、あ、あべるぅ~~わ、わたし、こころのじゅんびがぁ……」

「なに寝惚けたこと言ってんだ。  それよりさっさと着替えろ。」


「き、きがえてどうする……の―――」



すると、影の中から“ぬるり”と何者かが這い出てきた―――

いやしかし、この技能―――いつか見納めてた……



「おう―――ノエル、どうだった。」

「この宿の周り、すっかり囲まれていますね。」


「そうか……思ってた通りだったなあ―――」

「おもってた……とおり?? どういうことなの。」


「説明してやってる時間が惜しいが、判りやすい事だけ掻い摘んで言ってやる。」

「要はあなた、狙われていましたよ―――」

「えっ、わ……わたし?」


「あのエルフの町中で派手にやらかしちまったからなあ? いずれ報復に来るもんだと思っていたが……」

「自分たちの国であるエルフ領内ではなく、ダーク・エルフ領内に行こうとしたことで状況が変わってきてしまった……それに、私とアベルとの対決を見てしまった事で、余計な詮索までさせてしまったみたいですね。」


「あ……あなたたちの、たいけつもみられていた―――けれど、そのことをしっててなお……?」

「フ・フ……フフフフン―――違えな、そいつは。  あれは“見られた”んじゃなくて、敢えて“見せてた”んだ―――殺れるか? 『加藤段蔵』。」

「そのなまえ―――……」


「誰に物を? あなたも知っているはずでしょう……? 殊、夜戦に於いては、あなたでさえ勝てない我が忍術の神髄を―――」



その時……私は見てはならないものを目にしてしまった―――

人が……闇に同化してしまったのだ―――

それだけならまだしも、この宿の外で鶏を絞める時の声が、止め処なく聞こえてくる……

そして、もうどの声も聞こえなくなったタイミングで、またしても影から“ぬるり”と這い出してきた一人の忍……



「おう―――早かったなあ。ちゃんとやってきたのかあ?」

「あまりにも弱すぎて、遊ぶ気にもなれませんでした―――」


「ほう……それじゃ所見を聞こうか。」

「あれは、エルフの国の暗殺部隊―――確か……シャドウと言いましたか。   それの精鋭ばかりを集めてきたようですが……。」


「それでも、お前如きにはかなわなかったと―――それじゃ当分オレの出る幕はねえなあ?w」

「それよりどうします? まだこの安宿に? 私としては場所を変える提案をしたいのですが……。」


「ね、ねえ―――それよりあなたたち……さきほどは、あんなにまでけんかをしていたというのに……」

「……ああ、あれですか? 別にいつものことですよ。」

「それにこいつがちょっと憤って出て行ったのも、お前んとこの国の暗殺部隊の動きを探るためだ。  それに“ああした”方が、周りから見たらどう見えるか……説明しなくても分かりそうなもんだが?w」



敢えて喧嘩をしているように“見せて”いたのは演技であって、実はそこまで兄妹仲は悪くない?

そんな兄妹と、暗殺の対象である私とが一緒に泊まる宿を、この機会に襲えば……!?


そして、シャドウの動向を探るため出て行った彼女は、何食わぬ顔をして状況がこうなるまでを待っていた……!

「出来る」―――と言うものじゃない……怖いくらいに出来過ぎだ―――

それにあの技能……人と言う存在―――いや、現世うつしよの存在が影と同化をするなんて、もはや常識では考えられない!


しかも、私としては不本意だけれど、私の国が抱える暗殺部隊の精鋭を、この一人の黒豹の少女が皆殺しにしてきた。


これはこれで、中々葛藤する事態ではあったが、取り敢えず私はまだ生きている……。

だからこそ、やりようはある―――……。



「さあ~て、と。  色々落ち着いてきたところで、いったん整理するとするかあ。  おい―――ノエル……。」

「少し探りを入れてみたところ、どうやら彼の国……エルフの国にいる魔王が、現在のところ消息が判らないようになっていますね。」


「ふう~ん……そうかあ―――おい、ちびすけ、お前んとこの王様、現在行方不明なんだと……なんか知ってるか?」

「し……しらないわよ―――そんなの……」


「だろーな―――なんせお前は、このオレも信奉する、美と慈愛の女神……『魔王シェラフィーヤ』を名乗る不届き者だもんなあ~?w」

「もう……そのくらいにしたらどうです? あまりキツく言い過ぎると泣いちゃいますよ。」


「はッ! 泣いて助けられるもんと思ったら大きな間違いだぜ! そう言やノエル……お前も良く泣いて、おやぢやおふくろから助けてもらってたもんなあ? そりゃ通りで気が合うわけだあ~~ww」

「一体いつの話を~~……全く、ひねくれた性格をよりひねくらせて、どこへと向かうつもりなんです?」


「余計なお世話だッ―――それより……“もう一個”の件はどうなった?」

「ああ……その事でしたら―――」


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