第57話 男子達の桃源郷

「なあ、チカちゃんも隣で風呂に入ってるのかな?」

チカの同級生、ケンゴは少しドキドキしながらヤスシに話しかける。

「そりゃいるだろ、風呂の時間は決められているからな・・・」

学園のアイドルであるチカの裸が壁の向こうに存在していると考えると思春期の男子に取って妄想が捗る事になっていた。


「おい、この下で風呂が繋がってるぞ!!」

「なに!!」

大浴場は古い作りであり、男湯と女湯の浴槽が通り抜け出来ない程の隙間ではあるが繫がっていたのだ。

「ふっ、このコウスケの出番だな。」

水泳部のコウスケが浴槽に潜水し、隙間から覗こうとする。

「おい!コウスケ、お前だけ見ようとするなよ!」

3分間潜ったあとコウスケが浴槽から顔を上げる。

「くそっ!まったく見えねえ!」

コウスケは水面を叩く。

「おい、覗きなんてそんな不謹慎な真似をするな!」

タカシはコウスケを責めるものの当人も壁の向こうが気になって仕方ない。

「なぁ、この壁乗り越えれないか?」

壁の上に少し隙間がある、少し高いが協力し合えば何とかなるかも知れない。

「おい、足場を作れ、桃源郷は眼の前だ!」

男達の思いは一つとなる、体育祭さながらに組み体操かの如く人による階段が作り上げられていく。

「タカシ一人目は発案者のお前が行け!」

「すまないみんな!俺は先に行くぞ!」

タカシは裸の男達によって作り上げられた階段を登り桃源郷を目指すのだが・・・



「ちょっと男子!聞こえてるんだけど!」

「覗きなんて最低!!」

女子風呂から非難の声が聞こえてくる。


「うわぁ、聞こえてた!」

「聞こえてたじゃないわよ!今先生に連絡したから!」

「やべぇ!!逃げろ!」

男子は蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。


「お前ら待たんか!!」

慌てて逃げ出した男子の中には裸でホテル内を駆け回る。

「ホテルを裸で駆けるな!」

教師と生徒による追いかけっこは学校の恥として記憶に残されるのであった。

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