第36話 宿に着くと

「ユウヤ、よくやったな!」

おやっさんに背中を叩かれる。

「おやっさん・・・てめぇよくも全部押し付けたな!」

「いやぁ~いい子分を持って幸せだなぁ~」

「なら、盃をよこさんかぁ!」

「やだね~」


「まあまあ、ユウちゃん落ち着いて。

ねっ、折角の旅行なんだから。」

俺はチカに手を握られる。


「ま、まあ、いいか・・・」

俺が席に座ると、

「盃はやらんけどチカならいつでもあげるからな。」

「おやっさん!」

俺の抗議におやっさんは知らない顔をしていた。


旅行当日、

飛行機で仙台に向かうのだが・・・

それは異様な風景になっていた。

大量の極道が席に並んでいるのである。


そして、俺とチカは隣の席に座っている。

「ユウちゃん、飛行機怖いから手を握ってもいい?」

「いいけど、そんなに怖いかな?」

「うん♪怖いの、だから。」

チカは俺の腕にしがみつく。

「こら、危ないからまっすぐ座りなさい。」

「いいの!ユウちゃんと一緒なの!」


「ユウヤさん!何をしてるのですか!」

マナブは立ち上がりこちらに来ようとするが・・・


「お客様、もうすぐ離陸ですから、席に座ってシートベルトをおしめください。」

「いや、しかし!」

マナブはスチュワーデスに反抗しようとするが・・・

「いいから座れ、ワシの旅行の邪魔をする気か!」

倉田の睨みで席についた。

どうやら、旅行の邪魔をするのは命に関わりそうだ・・・


俺を含め、組員全員の背中に冷や汗が流れるのだった。

そんな中でチカだけが上機嫌で俺の腕にしがみついていた。


蔵王温泉の宿につく、リョウから用意されていたのは立派な別荘だった。

「素晴らしい造りだな、ユウヤよく見つけてきた。」

倉田は上機嫌だった。

それもその筈、どう見ても江戸時代から続くような大名屋敷、そして、女中の方々が出迎えてくれていた。


「え、えーと、リョウの紹介できたんだけどあっているかな?」

俺は恐る恐る聞いてみる。

「はい、若様よりお聞きしております。どうぞ中へ。」

俺達は中に案内される。


「ようこそ蔵王温泉へ、ロリコン殿。」

「・・・リョウ!てめぇなんでいるんだ。」

「こんな面白そうな事に首を突っ込まないわけないだろ?」

「何でだよ、組員の慰安旅行なだけじゃねえか。」

「ふっ、中学生と腕を組んで現れるような奴に言われたくないな。

どう見てもデートじゃねえか。」

俺の腕にはチカがしなだれかかっていた。


「いや、これはだな・・・」

「大丈夫だ、俺はよくわかっているからな。ちゃんと二人には部屋を用意しておいた。」

「嫌な予感しかしないのだが?」

「気にするな、みんな皆さんをお部屋に案内してあげて。」

リョウの言葉に女中が組員達を部屋に案内し始めた。


そして、俺はリョウに連れられ部屋へ・・・

「二人の部屋はここだ。」

「おい、一部屋しかないぞ。」

「中へどうぞ。」

「聞けよ!」

話を聞かないリョウの後をつけて中に入る。


部屋は純和風で広くゆったりとした造りになっている。

中庭にも面しており、優雅な一時がおくれる事は間違いなかった。


ただ・・・

「なあ、リョウ、なんで寝室が一つなんだ?」

「ふっ、どうせ二つ用意しても一つしか使わないだろ?」

「ちゃんと別で寝るし、そもそも、年頃の女の子と同室っておかしいだろ?」


「今更何を言ってる?昔から一緒にいたじゃないか?」

「いや、それは・・・」

「リョウさん、ありがとうございます。

主人は照れてるだけなんです。」

「チカちゃん、やっぱり♪

あっ、そろそろ俺は下がるよ、新婚さんの邪魔しちゃ悪いしね。」

「誰が新婚だ。」

「リョウさんありがとうございます♪」


リョウは俺を新婚扱いして去っていった。


「チカちゃんも否定してくれよ、アイツが調子にのるじゃないか。」

「えーなんで、私は別にいいんもん。」

「いやいや、ダメだからね、仕方ない他の組員の部屋に行こうかな。」

「ダメ!

・・・私、天井が変わると一人で眠れないの。ゆうちゃんダメ?」

チカは目に涙をため、上目遣いで見てくる・・・

俺はこの表情に弱かった・・・


「わかったよ、ただし布団は離すからな。」

「うん、それでいいよ♪」

チカはすぐに嬉しそうな表情を浮かべていた。

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