第30話 上京

金子組は色んな会社を抱えている。

おやっさんの趣味の元、思い付いた業種に手を伸ばしていたからだ。

基本的に独立して働いて貰っているが、経営権は全て握っており、影響力は衰えていない。

そんな中、昨今のアイドルブームに触発されたおやっさんの支持の元、買収した芸能事務所に俺とシンが向かう事になった。


「だりぃ~ユウちゃんに任せていい?」

「良くない、俺も面倒臭い、せめてお前も巻き込む。」

二人で東京の事務所に向かった。


此処に足を伸ばしたのも理由があった。

一押しのアイドルを見つけたのだが、売り出しのアピールが足りない、何とか手がないかと言うことだった。

漠然としすぎて解らなかった為に俺とシンが派遣され、手を貸すかどうかを決めてこいとの事だった。


「北条、俺達を呼ぶとはどういう事?」

「よく来てくださいました。実はこの子を見て貰いたくて。」

俺は北条から資料を渡される。

そこには渡辺彩花という15歳の美少女の写真付きプロフィールがあった。


「この子を売り出したいとの事か?」

「はい、ですが、わが社の力だけでは大手に食い込む事はまだ出来ないのです。

ですが、下積みをさせているとこの子の良さが消える気がするのです。

何とかならないでしょうか?」

北条は頭を深く下げて頼んでくる。


元々北条は自分で全てをやりたいタイプの男だ。

それが俺達に頭を下げてまで頼んでくるとは・・・

「わかった、お前の顔に免じて、話をつけてもいいが、どんな方向でいきたいんだ?」


「大手雑誌からグラビア写真を出したあと、大手CMに出演させて、大物プロデューサーから歌を出してもらい、映画出演、出来たらハリウッドで、お願いしたいです!!」

北条は食い気味に願望を垂れ流す。


そして、俺は顔をひきつらせる。

「望みすぎだろ?そこまでしてやるつもりはないのだが。」

俺の機嫌を損ねていることに気付いた北条は謝罪をしてくる。


「し、失礼しました。思わず全ての望みを言ってしまいました。」

「そうだな、望み過ぎた、大手雑誌のグラビアぐらいは直ぐに手配してやるよ。」

俺は面倒臭いが再発したので簡単な事だけで終わらそうとしていた。


「ま、待ってください、失礼は謝罪します。

どうかもう少し支援を!!」

「しかしだな・・・」

乗り気でない事を察した北条は、


「そうだ、彩花を見てください!彼女の才能を見たらきっと解って貰える筈です。」

北条は俺達を連れてレッスンをしている彩花の元に連れていった。


彩花はダンスの練習をしている所だった。

「ほう、綺麗な子だな。」

今までダルそうにしていたシンの目が輝き出す。


「そうでしょう、見るものを惹き付ける力があるんです!」

北条は自信満々に言ってくる。

「あれ?社長?どうしたの?」

俺達に気付いた彩花は此方に近付いてきた。

「此方は金子組のユウヤさんとシンさんだ。」

紹介されたあと、彩花は少し後ずさる。


「しゃ社長、この方達、闇の方の人じゃないの?」

「こ、こら失礼な事を言うな!」

「まあまあ、確かに闇の方から来たけど、この会社の経営をしている所だからね。」

「えっ?」

「此処は極道が経営する芸能事務所だよ。」

「そんな!社長聞いてないよ!」

「それは・・・」

北条は言いにくそうに言う。


「まあまあ、うちは極道と言っても今は一応犯罪行為はしてないからね、クリーンな所だよ。

それに株を全部握っているだけで経営には口出ししてないから。

今回、北条が君の為に俺達に頭を下げて、君のデビューの手伝いをするように頼んで来たんだ。」


「そんなの信じられない!どうせ、私に枕営業とかさせるんでしょ!」


「・・・いや、させないよ。何で商品価値を下げる真似をするの?

そもそも、体を売るならそっち方面の経営もしてるからね。」


「でも、私みたいな美少女、他にいる筈ないし・・・」


「自惚れるなよ、事情があり体を売る事になった子達にお前より美少女はいる。

ただ、不幸だっただけだ。

まあ、こんな事を言っても仕方ないか、それでどうする。

俺達に力を借りたくないと言うならそれでも良いぞ。」


「借りません!何で極道の力を借りないといけないのよ!」


「そうか、北条という話だ、本人が借りたくないと言っているのだからそれで良いだろう。」

「うっ!」

「無駄足だったな、シン帰るか?」


「ま、待ってください!」

最初、彩花が叫んだのかと思ったら奥にいた背の小さい子だった。

「君は?」


「私は渡辺美花、14歳です。彩花お姉ちゃんの妹です。

お姉ちゃんがデビューしないのなら私をデビューさせて貰えませんか?」

俺はよく美花を見る、姉妹だけあって、顔立ちは同じく綺麗だ。


「得意なのはなんだ?」

「歌です!声に自信があります!」

「ふーん、よし歌って貰おうか。」

美花はアカペラで歌い出す。

確かにいい声ではあった。


「ふむ、レッスンが少し足りないのかな?」

俺は北条を見る。


「はい、美花もいい素質とは思うのですが、彩花と違い惹き付ける力が足りないと思うのです。」

「よし、この子は俺が預かるよ。俺の手でデビューさせる。」

「えっ!この美花をですか?彩花の方が・・・」


「本人がいやがっているんだ。やりたがってる方がモチベーションも高いだろ?」

「お願いします!!」

美花は深く頭を下げる。


しかし、彩花は引き止めようとする。

「止めなよ美花、話は聞いていたでしょ、何されるか解らないよ。」

「いいの!私はこのチャンスを生かしたいの!」

「ふん、私は止めたからね。」

姉妹の話がついた所で俺は北条に言う。


「北条、この子の親への説明は任した。

この子は暫く預かると伝えてくれ。」

「解りました。しかし、何処へ連れていくのですか?」

「まずは知り合いの音楽家に鍛えて貰うよ、多分少し補正したら声の出方は良くなると思うんだ。」

俺は美花を連れて、別の所に向かった。


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