第21話 お迎え。
バレンタインが終わってから、1週間後。
「ねえ、ゆうちゃん。あのね、最近誰かにつけられている気がするの。」
「つけられている?」
「うん、学校から帰っていると後ろから足音がするの。」
「それは気持ち悪いな。」
「うん・・・」
「わかったよ。学校終わったら連絡してきて、迎えに行くから。」
「いいの!」
「チカちゃんの為だしね。」
「ゆうちゃん!」
俺は翌日から、帰りの迎えに行くことにした。
正門前に車をつけて、チカを待っていると。
「ゆうちゃんお待たせ♪」
「学校終わった?」
「終わったよ。」
「じゃあ、帰ろうか?」
「うん♪」
俺はチカと2人で帰った。
そして、3日ほど続けたある日。
「ねえ、チカ。迎えに来ている人だれ?」
「サチが聞いてるのは、ゆうちゃんのこと?」
「ゆうちゃんって言うんだ。」
「うん。」
「ねえ、どんな関係なの?」
「お父さんの会社の従業員だよ、そして、私の大事な人かな?」
「おーーー我が校のマドンナに男が!」
「ちょっと、騒がないでよ。」
「だって、男に興味なかったチカに男疑惑だよ!」
「えーなに?チカが彼氏作ったの?」
サチが騒いでいたのを聞きつけ、ユカリもやってくる。
「ま、まだ彼氏というわけでは・・・」
「何処までいってるの?」
「えーと、何処までもいってなくて・・・」
「なあんだ、チカの片思いか?」
「むーーーそうなんだけど・・・はっきり言わなくてもいいよね・・・」
「わわ、チカ、落ち込まないでよ。」
「どうせ、私は子供扱いされてますよ・・・」
「どうしようサチ、チカが暗黒面に落ちた。」
「こんなチカ見るのは珍しいね。」
「そんな事を言ってる場合じゃないよね。チカ落ち込まないでよ。」
「チカ、お迎え来るんじゃないの?」
「そうだった!わたし、帰るね。」
チカはカバッと顔をあげると帰り支度を始めた。
「なあ、チカさん、今日みんなでカラオケ行かない?」
クラスの男子、ショウが声をかけてくる。
「えっ?」
チカが振り返ると、そこにはショウの他に同じくクラスメイトのサトシとコウジもいた。
「サチとユカリちゃんも一緒にみんなで遊ぼうよ。」
振り返ったチカにショウは話を続ける。
「ごめんなさい、お迎えが来ているので帰るね。」
「迎えぐらい帰らせればいいじゃん、カラオケ終わったら俺らが送るからさ。」
「そんなこと出来ないよ。ワザワザ来てもらってるんだよ?」
「いいじゃん、遊びに行こうよ。」
「ごめんなさい。」
「迎えを断りづらいなら俺達が断ってくるよ。」
「そんなことしないで!」
口調の強くなったチカにショウ達は驚く。
「私は迎えの人と帰りたいの邪魔しないで!」
ハッキリと拒絶するチカにショウ達が呆気にとられた隙に、
「じゃあ、私は帰るから、サチ、ユカリ、バイバイ。」
「「うん、また、明日ね。」」
サチとユカリも呆気に取られていた。
「ゆうちゃんお待たせ。」
息を切らしながら走って来たチカに、
「そんなに慌てて来なくてもいいよ。」
「だって、ゆうちゃん待たせたら悪いし。」
「俺の事はいいよ、携帯いじって株やってるだけだから。」
「ううん、私がゆうちゃんに早く会いたいだけなの。」
「そ、そう。じゃあ、帰るか?それとも何処か寄って帰る?」
「うーん、どうしようかな?」
コンコン!
俺の車の窓をノックする女の子がいた。
「はい?」
「あの~ゆうちゃんさんですか?」
「変な呼び方だなぁ、俺はユウヤだけど、チカちゃんの友達だよね?」
「サチ、ユカリ!なんで来たの!」
「へへ、つい好奇心で見たくなって。」
「二人とも送って行こうか?」
「いいんですか?」
「いいよ、チカちゃんの友達だろ?」
「ありがとうございます。」
二人が車に乗り込んで来る。
「なんで、二人が来るかな・・・」
「もう、チカ機嫌直してよ。」
「チカちゃん、友達は大事にしなよ。それでどうする、真っ直ぐ帰るのでいいの?それとも何処かに寄る?二人とも時間は大丈夫かな?」
「大丈夫です、チカお茶でもしようよ。」
「うー二人の時間なのに・・・」
「まあまあ、私達も気になるし。」
「じゃあ、駅前の喫茶店『LABI』にするか?」
「そこ人気店ですよね、いきなり行って入れますか?」
「問題ないよ。」
「もう、仕方ないか、二人ともゆうちゃんに失礼な事をしないでよね。」
「しないしない、あと取ったりもしないから。」
チカは顔を赤くしながら、
「もう!からかわないでよ。」
そして、車は『LABI』に着く、店の前には行列が出来ていた。
「これじゃ入るまで時間がかかるよ~」
「やっぱり、人気あるよね。」
「二人ともこっちだよ。」
俺とチカは勝手知ったるなんとやら、店の裏口に向かう。
「えっ、どこに行ってるの?」
「並ぶの嫌だからね。裏技があるんだよ。」
二人を連れて、裏口から中に。
「よっ、4人だけど別室空いてる?」
「ユウヤさん!お久し振りです。空いてますよ。さあ、中に。」
店長が案内して、2階にある別室に来る。
「こんな部屋が・・・」
「これが裏技かな?」
「でも、誰でもは来れないですよね?」
「まあね、でも、この店に出資してるからね、これぐらいの役得がないと。」
「えっ?」
店長がやって来て、
「ユウヤさんにはお世話になってますから。皆さん初めまして店長のマルです。」
「たいした事はしてないが、ここまで成功するとは俺も驚いたよ。」
「たまたまですよ。それより、何になさいますか?」
「二人とも決まった?」
「たくさんありすぎて決められないです・・・」
「マル、適当に上手いところ見繕って持ってきて、あと俺とチカは紅茶、二人は?」
「私達も紅茶でお願いします。」
「かしこまりました。」
店長が下がって、作りにいった。
「ユウヤさんは何をしている方なんですか?」
「俺?投資家かな?」
「投資家?」
「そう、チカちゃんの家の資産運用が俺の仕事だよ。」
「もしかして、チカの家が大きくなったのは?」
「そうだよ、ゆうちゃんのお陰。お父さんも頭が上がらないの。」
「いや、俺の方こそ頭が上がらないんだが。」
「もしかして、ユウヤさんはお金持ち?」
「うん、まあ、ソコソコは稼いでいるよ。」
「ね、ねえ、私とか可愛くないですか?」
「ユカリ!何を言ってるのよ!」
「だって、お金持ちに会うなんてなかなかないのよ。お姉ちゃんが言ってたけど、合コンしても会えるのは普通の人ばかりだって。」
「だからって、ゆうちゃんに手を出さないでよ!」
「ほら、恋愛は自由だし♪」
「ユカリちゃんはませてるね、でも、まだ中学生なんだから慌てなくてもいいと思うよ。出会いはいつあるかわからないんだから。」
「そうだよ、ユカリは別の人を探して!」
「チカの慌てよう、なんか楽しい♪」
「サチ、楽しまないでよ!」
「だって、こんなに慌てるチカは珍しいじゃん。」
「だって、取られたくないんだもん・・・」
「チカ独占欲強くない?」
「いいの!」
「ほら、チカちゃん落ち着いて。」
俺はチカの頭を撫でる。
「にゃ~」
撫でると気持ち良さそうに俺にもたれ掛かってくる。
「うわぁ~」
「サチ見てよ、チカのあの顔、やばくない?」
「緩みすぎだよ、クラスの男子には見せれないね。」
「はっ!これはね、ほら!」
チカは慌てて弁明しようとするが、俺はもう一度撫でる。
「にゃ~」
また、俺に甘え出すが・・・
「って、ゆうちゃん、今はダメだから!みんな見てるし、せめて部屋に帰ってからにしてよ!」
「くくく、はいはい、わかったよ。」
「もう!」
「あのね、チカお部屋で何をするの?」
「こら、サチ、わかりきった事を聞いちゃダメだよ、チカはもう大人なんだぁ~」
「ち、ちがうからね!そういう事じゃなくて!」
「でも、ユウヤさんと部屋で二人きりになるんでしょ?」
「・・・それは、なるよ・・・」
「さっき見たいに甘えるんだよね?」
「・・・うん。」
「じゃあ、その先は?」
「・・・」
想像したのかチカの顔が赤くなる。
「チカ、何を想像したのかな?」
「ち、ちがうもん、何も想像してないもん。」
「チカのエッチ~」
「ちがうったら~」
「三人仲がいいんだね。こんなにはしゃいでるチカちゃんを見るのは珍しいよ。」
「あっ、ゆうちゃん、これは違うの。」
「いいって、はしゃいでるチカちゃんも可愛いしね。」
「可愛いって・・・」
チカは俺に抱きつき、赤くなった顔を隠そうとする。
「きゃーあ、チカ、甘えちゃってるね。」
「どうする、写真撮っちゃう?」
「学園のアイドルのスキャンダルだね!」
「学園のアイドルって?」
「ユウヤさん知らないんですか?チカは凄く人気があるんですよ。」
「そうなの?」
「男女問わず優しくて、頭も良くて美人、料理も裁縫も出来る、その上彼氏もいないとなればね・・・」
「学校の男子の初恋の大半はチカが独占してる。」
「へぇー、そうなんだ。だって、チカちゃん、モテてるね~」
「私は別に学校でモテなくてもいいもん。」
チカはギューと抱きついてくる。
「はいはい、二人ともゴメンよ、どうもからかいすぎて、チカが甘えん坊になったみたいだね。」
俺は俺の胸に顔をうずめるチカの頭を撫でて二人に言った。
「チカが甘えるなんて!」
「なんて、レアなの!」
「そう、昔から結構甘えてるよ。」
「お二人は長いんですか?」
「知り合ってからだと8年ぐらいかな?昔からベッタリ甘えてくれて凄く可愛いんだよ。」
「ゆうちゃん、言っちゃダメ、恥ずかしいよ。」
「ゴメンゴメン、」
チカはまた顔をうずめる。
「うわぁ~甘えすぎだよね。」
「ケーキに砂糖が入らなくなる。」
「ケーキをお持ちしました。」
笑いを堪えながら、ケーキを配膳するマル。
「お前何が言いたい?」
「いえ、相変わらず仲がいいようで。」
「何故笑いを堪えてる。」
「だって、ユウヤさん、チカさんとラブラブ過ぎて、つい。」
「ラブラブ?」
「ええ、どっからどう見ても恋人同士が人目を気にせずベタベタしているようですね。」
「お前、人聞きの悪いことを。」
「あの~ユウヤさん、私達から見てもそう見えますよ。」
「えっ?」
「だって、人前で抱き合うなんて一瞬でも考えるのに、さっきからずっと抱き合ったままですよ?」
「いや、これぐらい昔からしてるし、普通じゃないの?」
「普通じゃないですよ。」
「そうなの?チカちゃんだって、ちょっと離れようか?」
「やだ・・・」
「やだじゃなくて。」
「ゆうちゃん、私がいたらダメ?」
チカは上目遣いで俺を見てくる。
「いや、ダメじゃないけど。」
「よかった。」
チカは更に抱きついてくる。
他の三人の目が冷たい。
「ま、まあ、無理に引き離さなくてもいいかな~」
「仲が良いことはわかりました。チカを大事にしてくださいね。」
「そりゃね、大事にしてるし、これからも大事にするよ。」
「ご馳走さまです。」
「うう、まあ、ケーキも来たし、さあ食べて、チカちゃんケーキ来たよ。」
「うん、あーん♡」
チカは口を開く。
俺はそのままケーキを食べさせる。
「美味しい♪」
「サチ、なんか暑いよ。」
「ユカリ、いつから夏になったのかしら?」
「二人ともどうしたの?」
「お二人の暑さにやられました。」
「いつもこんな感じなんですか!」
「チカちゃんが甘え出したら、こんな感じかな?」
「学校の男子の夢がここに。」
「話しても信じてもらえないかも。」
「二人とも言っちゃダメだよ、チカちゃんの迷惑になりそうだから。そのかわり今日は思う存分食べていいよ、あと御家族にお土産に持って帰っていいから。」
「はい。でも、いいんですか?」
「かまわないよ、さっき笑いやがったからな、たっぷり働かしてやる。」
その後、俺は甘えるチカを小脇にサチとユカリを接待して。帰宅した。
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