白い水中都市

第30話・栓を抜いて都市を水没させたのは……あたしです

 布の袋を頭からかぶった、仁・ラムウォッカ・テキーララオチュウ・ギンジョウワイン・ビアリキュールと。

 オプト・ドラコニスと、亜・穂奈子クローネ三号と、ゾアの四人は丘の上に見える神殿と、小規模な港町がある孤島エリアにやって来た。

 このエリアは、孤島以外は淡水が満たされた長方形の湖で、透明度が高い湖の中を覗くと沈んだ白い古代都市が見えた。


 桟橋から水中都市を覗いている、ゾアに穂奈子が訊ねる。

「うちの師匠見なかった? さっきから姿が見えないんだけれど?」

「さぁ? さっきまでそこで小魚を見ていたけれど?」

 実は、ヌイグルミ師匠はヨダレを流しながら、水中の魚を獲ろうと桟橋から身を乗り出したところを、水中から飛び出してきた大型怪魚に襲われ。

 誰にも気づかれずに、魚に喰われていた。


 仁が言った。

「ここからは、オレが護衛するが……先へ進む道が見つからねぇ」

 水中には、菌糸の根がゆらゆらと揺れている。

「この島から、どうやって次のエリアに行きゃあいいんだ?」

 仁が朱ヒョウタンに入った救世酒を、直接飲みしていると。

 水中から水棲ヒューマン種族の成人女性が、桟橋に上がってきて言った。

「もしかして、上層のエリア世界から来た方々ですか?」

 古代ギリシャ神話の太モモを露出させた少年風の衣装で、伸ばした前髪で片目を隠し。

 手の指の間に水掻き、首に魚のエラがある水棲人類の女性は、水滴を滴らせて仁たちに近づいてきた。

「ようこそ、『白い水中都市』の島へ……小さな港町の島なので、たいしたおもてなしはできませんが……今宵の宿は決まっているんですか?」

「いや、まだだ」

「だったら、うちの宿へどうぞ……宿賃はお安くしますよ」

 仁たちが、どうしょうか話し合っていると。

 今度は桟橋の上に水中から、タコ類の触手がピトッと現れ。上半身タコで下半身ヒューマン異星人のタコ人間が登ってきた。


 タコ人間は、魚を縄で結わえて持っている。

 タコ人間が水棲人類の女性に言った。

「その人たちは、お客さんかい『セラムーン』」

 セラムーンと呼ばれた、片目を前髪で隠した水棲人類が答える。

「はい、うちの宿屋に泊まってもらいます……食事用の新鮮なお魚をお願いします」

 オプト・ドラコニスが小声で。

「勝手に決めるな……それにオレは魚料理は苦手だ」と、呟いた。

 

 タコ人間がセラムーンに言った。

「明後日は祭りだな……準備をしておけよ」

 セラムーンの顔に少し憂いの表情が浮かんでいたのに、気づいた穂奈子は首をかしげた。

 セラムーンに案内された宿は、セラムーンが一人できり盛りしていた。

「おばあちゃんが亡くなってから、あたし一人で宿屋をやっています……食事は共同の食堂でお願いします」

 宿には仁たち以外の客はいなかった。


 食事の時刻までまだ、かなりの余暇があるので、島の観光に出かけた仁以外の者はセラムーンと、お茶会の談話を楽しむコトにした。

 白い飲み物で喉を潤したセラムーンが、話しはじめた。

「実は、この島は本当は山のてっぺんで、水中にある古代都市……沈めたのあたしなんです……道を歩いていたら、道路に黒い栓があって」

 穂奈子が疑問符で聞き返す。

「栓???」

「鎖が付いている、ゴムみたいな丸い栓です……なんだろうなぁ、って引っ張って抜いてみたら。穴から水が噴き出してきて、あっという間に都市が水没……なんとか急いで栓をハメたので、山のてっぺんだけが島になって残りました……いやぁ、あの時は焦りました……あはははっ」

 明らかにホラ話だった。オプト・ドラコニスだけが本気にして、興奮する。

「すげぇ! 地面にある栓を抜くと水が出てくるのか!」

「水だけじゃなくて、引き抜くとマグマが噴き出したり、温泉や石油が出たり、炭酸ガスの混じった清涼飲料水が噴き出す栓も、サンドリヨンにはあるそうです」

「すげぇ」

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