意外な欠点

「ありがとう。もういいわ」


昼食を半分ほど食べ終えたタイミングで逢坂はそう言った。

俺は名残惜しさを残しながら素直に手を退ける。


「それで、友達作りの具体案はあるのか?」


「ええ、もちろんよ」


逢坂は一枚の紙を取り出した。


「ここに全て書いてあるわ」


「見てもいいか?」


「構わないわ」


「うわ……」


紙を受け取り逢坂の考えた案に目を通す。案自体は悪くは無いと思うが、それ以上に目が行くのが案の周りに書かれている絵だった。

華やかさを求めたのか、はたまた暇だったからかは分からないが、恐らく人であろう絵が書いてある。


「この絵は……」


俺は恐る恐る逢坂に尋ねる。


「可愛いでしょう?その絵は私の目標を絵として書いたものよ」


逢坂は自信満々にドヤ顔でそう答えた。


これは酷い。


逢坂の絵を簡単に説明すると、顔だろう部位は歪み。目は魚眼のように離れている。

さらに、多分手を繋いでいるのだろ部分はよく見る宇宙人のように三から四本の指で構成されており、何も知らずに見たら何かの実験に失敗した魚人にしか見えない。

完璧だと思っていた逢坂の意外な欠点は致命的な絵心だった。


「ちなみにこれは……」


ギリギリ理解が出来た絵の中に理解の出来ないものがあった。

何度見ても分からない。逢坂に聞いてみた。


「ああ、これはね。料理をしている所よ。友達と一緒にクッキーとか作ってみたいのよ」


ああ!これ生地を薄くする為の棒か!


顔や手の歪みはそのままに謎の棒が追加されていた。

いや棒と表すには少し歪が過ぎるそれは真ん中より上が異様に肥大化しており、謎のぶつぶつが付着している。

逢坂いわく転がした時に付いた小麦粉。らしい。

何か子供用のプラスチック野球バットにこんなのあった気がする。

異様に短い癖に持ち手より上が太くなっているやつな。


ん?ということはこれもしかして……。型抜きと泡だて器か?


 みえねえ……。


 とまあ、そんな感じで逢坂の絵に翻弄されつつも、逢坂の描く友達とやりたいこと、友達作りの案に目を通す。

 

【友達とやりたいこと】


 ①放課後のおしゃべり

 ②友達と一緒に登校、下校

 ③おかし作り

 ④メール

 ⑤恋バナ


 【友達作り作戦】


 ①共通の趣味や話題を見つける

 ②話しかける

 ③……


 やりたいことが明確になっていていいとは思うのだが、【友達作り作戦】の方が短いということに違和感を覚える。

 今の逢坂にとって一番重要なことはどのように友達を作る。ということではないだろうか?それゆえある程度のことは発案していると思っていた。


「なあ」


「なにかしら?」


「何故作戦の方は三つしかないんだ?」


 俺の何気ない質問に逢坂は箸を止めた。


「そ、それは……から……」


 俯きぼそぼそとした口調で逢坂は何か言った。


「悪いもう一回行ってくれないか?」


 聞こえなかった俺は聞き返す。


「だから……から……」


「もう一回いいか?」


 聞こえない。


「だから!!!今まで友達ができたことが無いから想像できなかったの!!!」


 いつもの逢坂からは想像もできない程の大声に思わず固まる。


「そうか、悪いことをきいたな」


 俺は紙に視線を戻す。


「だって、しょうがないでしょ!!!なかったことは想像できないでしょ!!!」


 淡白に返したことに納得がいかなかったのか、逢坂は言葉を続けた。


「そうだな、俺が悪かった」


 素直に謝罪。


「そう言うけど、あなたはどうなのよ?あなたもどうせ私と同じで友達がいないんでしょ!」


 勝手に俺を同類扱いする逢坂に無情な現実を突き付ける。


「俺、友達いる」


「えっ……うそ……でしょ……!」


 俺に友達がいたことがそんなにショックだったのか逢坂は両手膝を床に着いた。


「うそ……うそ……よ……。それじゃあ、友達がいないのって私だけ……?」


「大丈夫か?」


 ヒステリック状態に陥った逢坂に声を掛けるも帰ってくるのは呪詛のように聞こえる「うそ……」という言葉だけ。

 どうしたもんか。


「京くん……」

  

 不意に名前を呼ばれる。


「何だ?」


「撫でて」


「えっ……。それは……」


「撫でて」


「はい……」


 有無を言わせぬ逢坂の気迫に素直に従う。


 体育座りで膝に顔を埋めている逢坂の隣に腰を下ろし指示通りに頭を撫でる。


 何度撫でても飽きることが無い。


「いつまで撫でればいい」


「私の気が済むまで」


「はい」


 昼休みが終わるギリギリまで撫で続けた。

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