第7話 ソルと一緒!!

 まず、私はソルを街の地図がある場所に連れて行った。


「地図? でも、全然読めないよ?」

「その文字をジッと見てて」


 ソルが、よく分からないという風に眉を寄せながら、少しの間、地図を眺める。すると、ソルの肩がビクッと震えた。多分、スキルを手に入れたのかな。私もびっくりしたから、気持ちは分かる。


「すごい! スキルが手に入ったよ。言語学だって」

「うん。この文字を見るだけで、手に入るから結構簡単だよね。この世界の文字は、私達にはわからないから、最初に手に入れておくべきかなって」

「そうなんだ。でも、確かに、文字が読めないと不便だしね」

「看板とか見てたら自然と読めるようになってくるから、しばらくはキョロキョロしてるといいかも」

「わかった」


 ソルは、私の言ったとおり、周りを見回している。


「戦闘の前に、行きたいところがあるんだ。ソルにも紹介したいし、先にそっちに行っていい?」

「いいよ。ルナちゃんの紹介したいところ気になるし」


 ソルは、ニコニコとしながら、私の手を取る。


「行こ!」


 私とソルは手を繋いで、街を歩いて行く。私が紹介したかった場所は、もちろんヘルメスの館だ。東通りを進んで、途中で路地裏に入り進んで行く。ここに来るまでに、何故か皆の注目を浴びた。


(何で皆こっちを見ていたんだろう?)


 ちょっと気になるけど、今は、ヘルメスの館に向かう事にした。


「路地裏に入るの? 大丈夫?」

「うん、道は覚えてるからね。昨日何回も行ったから」

「昨日がサービス開始初日なのに、何回も行ってるの?」

「うん、良いお店だよ」


 路地裏を進んで行くと、看板をぶら下げたボロボロの家に辿り着いた。


「……ここ大丈夫なの?」

「見た目はボロボロだけど、中はすごく綺麗だから」


 私が、扉を開けて、ソルと一緒に中に入る。


「こんにちわ」

「いらっしゃいませ! ルナちゃん、来てくれたんですね!」

「うん、アイナちゃん。今日は、幼馴染みも連れてきたんだ」


 私は、横にいるソルを、少し前に押す。


「初めまして、ソルです。ルナちゃんの幼馴染みをしています。よろしくお願いします!」

「私は、ここのウェイトレスをしています。アイナと申します。よろしくお願いします」


 二人とも朗らかに笑いながら挨拶をする。


「アイナちゃん、アーニャさんはいる?」

「はい、裏にいます。お二人を案内してからお呼びしますね」


 私達は、アイナちゃんに案内されて席に着いた。案内されたのは、昨日と同じ席だった。


「すごく綺麗なお店だね」

「うん、私のお気に入りの場所だよ。偶々見つけたんだけどね」


 私とソルがそう話していると、奥からアーニャさんがやって来た。


「いらっしゃい、ルナちゃん。そちらは初めましてね。私は、ここ、ヘルメスの館の店主、アーニャ・メルクリウスよ。よろしくね」

「ルナちゃんの幼馴染みのソルです。よろしくお願いします」


 ソルが少し緊張しながら挨拶をした。ソルは、可愛い人も綺麗な人も好きだけど、綺麗な人相手だと少し緊張してしまう。何でかは、定かでは無いけど。


「アーニャさん、夜烏の解体を済ませましたよ」

「おっ! じゃあ、その素材と……。そうね、ルナちゃん今いくら持ってる?」

「えっと、六二〇〇ゴールドです」


 私が現在の所持金を伝えると、アーニャさんは、少し考え込んでから口を開く。


「じゃあ、五〇〇〇ゴールドを前金として頂けるかしら。その後に一〇〇〇〇ゴールドね。それで、装備を作るわ」

「わかりました。お願いします。ところで、スピードローダーってありますか?」


 私は、ゲームを始める前に調べたリロード対策のものがあるか訊いてみた。


「一応置いてはいるけど、ルナちゃんの銃を見せてくれる?」

「はい」


 私は、アイテム欄から銃を取り出し、アーニャさんに渡す。


「六発のリボルバーね。少し待っててね」


 アーニャさんは、立ち上がって奥に向かう。少しして、アーニャさんは、小さな黒いポーチを持ってきた。


「これは、私のお古ね。入れ物が必要だと思うから。スピードローダーは中に入れてあるわ。全部で五つだけどいいかしら?」

「はい。何から何までありがとうございます。いくらですか?」

「これはいいわよ。お近づきの印よ。昨日は何も渡せなかったし」


 アーニャさんは微笑みながらそう言った。本当は、昨日のうちに何か渡そうかと考えていたらしいが、何も思いつかず、渡せなかったようだった。


「そんな、悪いですよ」

「いいの。私のためと思って受け取っておきなさい」

「……わかりました。ありがたく使わせてもらいます」


 結局、アーニャさんの好意に甘えさせてもらうことにした。絶対に大事に使わなきゃ。その場で、ポーチを開けてスピードローダーに弾をセットする。


「ルナちゃん、銃を使うんだね」


 その様子を見て、ソルがそう言った。そういえば、ユニークスキルを持ってるってだけ言って、銃を使うとは言ってなかったかも。


「うん。私のユニークスキルは銃術なんだ。このリボルバーを使うの」

「へぇ、私は剣道やってるから刀でもある程度使えそうだけど、銃なんて使えるんだね」

「スキルのおかげなのか分からないけど、問題なく使えるよ」


 ソルの疑問は当たり前のものだろう。私は、何も気にせず使っていたから疑問に思わなかったけど。


「じゃあ、私もこの刀を問題なく扱えるんだね」

「そうじゃないのかな。スキル持っていても、まともに使えないじゃ意味ないだろうし」


 私は準備を終えて、席を立ち上がる。


「じゃあ、早速お金稼ぎに行ってきますね」

「もう行っちゃうんですか?」

「うん。でも、お金稼ぎ終わったら、またすぐに来るよ」


 アイナちゃんが少ししょんぼりするので、すぐに戻ると言うことを伝えておく。すると、アイナちゃんは、一転笑顔になった。私もつられて笑顔になる。その様子を見てたアーニャさんは、少し呆れた顔をしていた。


「アイナ、呼び方を砕けさせているなら、しゃべり方も砕けたら? なんか、微妙によそよそしくて変よ」


 私とアイナちゃんは、互いに見合った。


「ついでに、ソルちゃんも仲良くなったらいいじゃない。貴方達は年齢が近いでしょ?」


 ソルも私達と見合わせている。


「そうですね。改めて、ルナちゃん、ソルちゃん、よろしく」

「うん、よろしく、アイナちゃん」


 そういって、ソルは、アイナちゃんに抱きつく。アイナちゃんは、少しびっくりした様子だったけど、すぐに抱き返した。


「うんうん、やっぱり、女の子は仲良しじゃないとね」


 アーニャさんは、満足げに頷いている。


「ソル、そろそろ行くよ。戦闘に慣れなくちゃ」

「うん。アイナちゃん、また後でね」


 私達は、アイナちゃんとアーニャさんに手を振って、ヘルメスの館を出た。路地裏を進んで、大通りに出る。


「どこから出て行くの?」

「南門だよ。あそこが、初心者用の狩り場だから」


 私は、ソルを連れて南門へと向かう。


「そういえば、回復薬とかは買わないの?」


 ソルが、東通りを歩いている最中にそう言った。


「……忘れてた」

「RPGの基本でしょ?」


 初めてのVRMMORPGでうかれて、すっかり忘れていた。ソルの言うとおり、RPGをやるときに大事なことは、武器と回復手段だ。このゲームにも、回復薬としてポーションが売っていた。しかも、かなり良心的な値段だ。まぁ、最初の資金三〇〇〇ゴールドだったから、あまりに高いと買うことも迷ってしまうからね。


「十個で一〇〇〇ゴールドか。買いやすい値段で良かった」

「もっと買わなくていいの?」

「ダメだよ。少しはお金残しとかないと、解体屋に頼めなくなっちゃうから」

「解体屋?」


 私は、このゲームでのお金の稼ぎ方の一つを説明した。


「これ、最初から知ってないと、お金稼ぐの無理なんじゃ……」

「後は、自分で解体するしかないね。まぁ、でもチュートリアルをチャント読んでいれば、分かるはずだよ」

「嘘、そんな事書いてあったっけ?」

「あったよ。所々流し読みしていたでしょ」


 そんな事を話しながら歩いていると、南門が大きくなってきた。


「ふぅ」


 ソルが少し息を吐いた。


「緊張してる?」

「うん。VRMMOは初めてだから、身体動かしてモンスターと戦うのは緊張するよ」


 ソルは顔が強張っていた。なので、ちょっと変顔をしてみた。


「ぶふぉ!」


 ソルは思わず吹き出していた。


「はははは! ちょっと、ルナちゃん、それせこいよ! はははは!!」


 ソルは大声で笑う。緊張はほぐれたかな。


「さぁ、行こ!」

「うん!」


 私達は、門から外に出る。初めてのパーティーでの戦い。私も少し緊張する。しばらく歩いていると、目の前に白い毛玉が現れた。


「何!? この毛玉! 可愛い!」

「キラーラビットだよ。体当たりで攻撃してくるから気をつけて」


 私達は、それぞれの得物を手に取り、構える。私の腰には、アーニャさんからもらったポーチが装備されている。


「私は、なるべく攻撃しないから、ソルは戦闘に慣れてね」

「うん! わかった!」


 ソルは、手に刀を持ち、キラーラビットと対峙している。


 キラーラビットが、体当たりの前の溜めにはいる。ソルは、動かずに待ち続ける。キラーラビットが、力を解放し、ソル目掛けて体当たりをする。ソルは、身体を横に少しずらしながら、横を通り抜けるキラーラビットの頭を刎ねる。


「ふぅ~」


 ソルは長く息を吐いた。どうやら、対峙してから今まで息を止めていたようだ。


「どう?」


 ソルに、戦闘の感覚を訊く。


「うん。大丈夫だね。ちゃんと動く、というか、現実よりも動きやすいかな」

「ステータスが関係しているのかもね」

「うん、そうなのかな。こういうときステータスを見られないのは困るね」


 そう言っている内に、私達の周りには、キラーラビットが沢山いた。


「囲まれたね」


 ソルが、刀を構えたまま言う。


「でも、大丈夫だよ。一匹ずつちゃんと対処していけば」

「そうだね」


 私は、キラーラビット達が溜めに入っている内に、引き金を引く。狙い違わずキラーラビットの頭を撃ち抜く。すぐさま、撃鉄を起こし、次のキラーラビットを狙って引き金を引く。次々と狙いを変えて引き金を引いていく。ソルも体当たりをしてくるキラーラビットの頭を刎ね、身体を両断する。


「ソル! 毛皮も素材になるんだから、丁寧に斬ってよ!?」

「そんなの難しくて無理だよ!」


 そう言い合いながら二人でキラーラビットを倒し続ける。六匹倒したところで、弾が切れる。すぐさまポーチの中からスピードローダーを取り出し、一気に六発リロードする。一発一発リロードしていた時よりも格段に早くリロード出来るようになった。


「これ便利!!」

「良かったね!」


 二人で倒し続けた結果、周りにキラーラビットの山が出来上がっていた。


「これ何匹いるんだろう?」

「私は、二十七匹斬り伏せたよ」

「私は、二十二匹を撃ち倒したよ」

「じゃあ、四十九匹だね」

「キリが悪いね」


 私はそう言って、引き金を引く。私の銃口の先にいたキラーラビットが、側頭部に風穴を開けた。


「これで、五十匹だね」


 私達は、計五十匹のキラーラビットを倒した。この辺りのキラーラビット、全滅してないといいけど……

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