第30話 二対

 俺は未だに力が完全に目覚めていないにもかかわらず、新たに起きた問題を解決するべく、力の復活を急いだ。

 ただ、力は幾ら急いでも戻るのはゆっくり。それでも今余っている時間を全て鍛練に注ぎ込む事を俺は決意した。


 今日、次に学ぶのは光と闇の魔法。教師は前回と同じくフィトラが担当する事に。


「さてと、今日も魔法に関する授業だねぇ。今日は……光と闇属性魔法だよぉ」


 今日もフィトラは生徒を集め、野外授業を始めた。実技訓練場でも良いだろうにと思うが、本当の土の上で戦う方が普段以上の力が出せるだとか。そんな心理的な意味持っての事だろうと俺は思っていた。

 そこで俺は今回の授業は誰が参加するのかと周囲を見回すと、そこに一人他の生徒の集まりから離れる様にルルド姿があったので、声を掛けた。


「ルルド。今回は参加するんだな」

「あぁ、カオス。お前は何処にでもいるな。本当に全科目マスターするらしい……な?」

「あぁ、そうでないと意味が無いからな。少しでも力を付けなくては。その必要が最近になってから必要になってきてな」

「へぇ〜」


 俺を追いかける様にして中級に上がってきたルルドだが、相変わらず興味無さげに俺の話を聞き流す。その態度になんなんだと俺は溜息を吐く。


 そう話しているとフィトラは授業を開始する。


「えーっとじゃあねぇ。この前はカオス君に基本魔法について口頭で教えてもらったけど、とりあえずあんな軽い説明でもみんな理解出来るんだねぇ。という訳で、僕も軽く説明するから良く聞く様にぃ」


 俺はフィトラの話を聞きながら隣に立つルルドを横目に、小声で前回の授業の事を聞く。


「どうしてこの前の四属性の授業は出なかったんだ?」

「魔法のちょっとした事前説明みたいな物があって……それで俺は闇属性が向いているかも知れない。そう思っただけだ」

「そうか……」


 得意魔法。それはその者の生まれ立ちから決まる物が多いが、それを本人が自覚しながら"こうしたい"という希望が有れば練習次第で変える事も出来る。

 今のルルドがそれに当たる。ルルドが元から持っている類稀な戦闘能力と体内魔力の流れからして、本当の得意魔法は雷の筈だ。

 雷魔法は電気を操り、最終的には巨大な落雷を発生させる。更に、補助効果により自身の攻撃速度を上げ手数を増やす等、素手を武器とした戦闘方法としてはかなり強くなる。

 それをルルドは闇に変えたいと言うのか。何かしら理由があるのだろう。


 それからフィトラの魔法の説明がされる。


「それではぁ、今日は光と闇属性だね。まぁ、光と闇って言うからお互いに牽制し合うんだけどぉ、闇は少し違って光を打ち消しながらも、他四属性に対して若干有利に立ち回れるんだ。殆どの人が此処に魅力を感じるんじゃ無いかな。でもねぇ、闇はあくまでも闇だから使う本人が強く無いと幾ら四属性に有利だとしても簡単に弾かれてしまうんだ。

 それでねぇ、光と闇の魔法は別名があって、光が神聖魔法で、闇が呪禁じゅごん魔法って言うんだ。

 主に、神聖魔法は天界に住う天使の力を少し借りて闇に対して絶大な効果をもたらす魔法ばかり覚えるんだけど……。呪禁魔法は天に抗い、それを喰らう力を身につける事が出来る。

 喰らうとか言えば、本当に相手の魔力を喰らう事にあるんだけど、それがなかなか厄介なんだよねぇ。

 これからそんな二対の魔法を教える訳だけど……」


 フィトラは光と闇の関係について、又闇の恐ろしさについてうんうんと頷きながら解説すると、俺とルルドを交互に目線で見つめる。


「これからカオス君とルルド君に模擬戦をしてもらう。習うより慣れろといつか言ったけど……これに関しては慣れるとか言う問題じゃ無いから、既に習得している同士の戦いを目の前で見て感覚を掴んで貰おうかな。

 そこで、一つルールを作る。勿論、お互いは本気でやってくれて良いんだけど、今回は光と闇の相性を知る授業なのでぇ……カオス君は、神聖魔法と四属性のみ。ルルド君は、呪禁魔法と無属性のみと制限する」


 突然の模擬戦の話が進んでいる事に俺はフィトラの話を途中で遮る様に反論する。


「おいフィトラ。俺はやるとは一言も言っていないが?」

「カオス君。僕は此処では教師なんだ。やると言ったらやる。異論は認めないよ? 大丈夫さ。危なくなったら止めて上げるから」


 全くその通りか。いくら俺が勝手な判断を嫌うとしても、今は生徒と教師の関係。逆らってもそれを曲げる事は許されない。


「ルルドはどうだ?」

「お前の強さは中級昇格試験で十二分に分かってる。それでも今此処で本気で殴り合えると言うのならやってやる」


 ルルドは鋭い眼差しで俺から視線を逸らさず、素手による構えを取った。


「おや、どうやらルルド君はやる気マンマンの様だ。カオス君、分かっては居ると思うけど……本気でやってねぇ?」

「仕方が無い……ならルルドよ。本当に初っ端から本気で行くぞ」

「あぁ、望む所だ」


 そういうと、フィトラより始めの合図がされる。


「という訳で……始めぇ!」


 俺は最初に火の魔法で簡易的な炎の剣を作り、ルルドに向かって突進。勢いよく振りかぶる。

 が、炎の剣はルルドの片拳によって弾かれ、気付けばもう片方の拳は俺の腹を抉っていた。


「ぐっ!」


 俺は一瞬えずくが、そこから距離を置かずに両手の平を正面に突き出す様に構え、ゼロ距離で火炎を放つ。特級魔法科のウィル・アデルフィアが見せていた技だ。

 ウィルより威力は劣るが、これをゼロ距離でくらって普通なら無事では居られない。


 ルルドはすぐさま俺から距離を置き、バックステップによって火炎を回避する。そのルルドの腕を見ると、確かに魔力を多少だが喰らっていた。これによってダメージを減少させたか。


 そう俺の火炎放射でルルドの視界を遮りながら、止めると同時に俺は、正面へ突き出す両手から直径十センチ程の氷の弾丸を放つ。

 これにルルドは氷の弾丸の先端目掛けて拳を思いっきり振るう。これによって氷は簡単に砕け散りまた魔力を喰らわれる。


「甘いッ!」


 俺はそう言うと、ルルドの一撃で砕け散った氷の粒を爆発させる。これを狙っていた。

 闇属性は他属性を力で封殺する特徴を持つが、封殺しても完全相殺では無い。多少の魔力は残してしまうのが傷だ。

 空気中に闇が吸収仕切れなかった魔力。浮かぶ氷の粒はルルドの顔面の目の前で爆発し、衝撃で退くルルドの態勢。


「お前は魔力の扱いに長けているって事は知っていたけど……どんな微量の魔力でも攻撃に転用するとはな……。だが、俺の闇の力も甘く見ると痛い目に合うぞッ!」


 次の瞬間、ルルド片腕に闇の力が黒い霧となり更に濃く渦巻くと、ルルドの片腕が禍々しい魔物の形へと変貌する。

 俺はこれを知っていた。闇の力は魔力を『喰らう』事が出来る。これにはまた意味があり、発動者の力を底上げしたり、今の様に姿形を変える事で人間より並外れた力を引き出す。

 この力をルルドがどれだけ制御し、引き出すのかが見物だな。


 そして変形させた腕でルルドは俺に向かって突進。勢いで殴ってくる。魔物の様に鋭く尖ったこの爪で殴れば殺傷能力は十分にある。そろそろフィトラに模擬戦を止めて欲しい物だが……。

 俺はこれを次は風の魔法で妨害。ルルドの足元から竜巻を発生させ、ルルドの身体を浮かせると空かさず、魔力で槍の形を形成し、風の力を利用して投降する。この時投げた槍は音速を超えた速さとなる。普通なら避けられない。


 ただ、この力も当たりどころが悪ければ殺す事も出来るのでわざと急所を外して投げた。だが、ルルドはこれを避けようとはせず、竜巻で浮かぶ身体より、変形した腕を前へ突き出し、槍を受け止めようとしたのか。風の槍を自ら腕に貫通させる。

 そして魔力を吸収。魔力の塊である槍を完全に吸収すると、更にもう片方の腕を変形させた。すると両腕で竜巻を振り払い、地面に着地後、次は両腕の中から触手を伸ばして来た。


 触手はうねうねと伸びるが、先端は刃物の様に鋭く、人間の身体なら容易に貫く力を持つ。

 闇の力による変形と攻撃は確かに便利だが、魔力を完全に吸収し切れない上にもう一つ弱点はある。それは、変形した身体も発動者の一部だという事。

 勿論、今俺に向かって来ている触手が切断されれば……。


 俺は触手が俺の身体に打つかる前に、体内魔力をフィトラが行った聖炎の様に爆散させ、放電。空気中に雷の波を発する。

 触手が雷の波に打つかれば、たちまちルルドは感電。更に一度射出させた触手はすぐには引き戻せない事に触手はバチバチと音を鳴らし、引き裂かれる。


「ぐあああっ!? ……まだ、まだだッ!」


 遠距離攻撃が失敗したとなれば、攻撃方法を変えるだろう。俺はそう思っていたが、ルルドは再度、触手を俺に伸ばして来ていた。触手が引き裂かれた直後に、既に新たな触手を伸ばしていた様だ。

 俺は予測を外し、ルルドの触手に反応が遅れ、遂に二本の触手が俺の胸を貫く。

 そして触手は俺の背後で折り返し、もう一度背中から貫く。


「ぐっ!」


 ふとルルドの顔を見れば、苦渋の表情をしていたが、更にルルドの顔は魔物の様に黒く、目を赤く光らせていた。


「コレデ、オワリダ……」

「はーいストップ」


 ルルドの両腕が俺の胸から勢い良く引き抜かれようとした所でフィトラの制止が入った。フィトラはルルドの背後から肩を軽く叩くと、ルルドから一気に闇の力が発散され、通常のルルドの姿へ戻る。


「いやぁ、ルルド君。上出来だ。本来得意な雷じゃ無くて闇の力を使いたいって言うからどんなものかなぁーっと思ったけど……予想以上に制御出来てるねぇ。

 うん。ルルド君なら闇の力を使っても良いだろう。でも一つだけ注意はしておこうかな。

 闇の力は宿事もあるから。だから力の使い方はしっかり理解しておくんだよ」

「分かりました……」


 こうして俺とルルドの光と闇の模擬戦は終わった。ついでに模擬戦を観戦していた生徒達は唖然とした表情をしていたが、フィトラはお構いなく授業を終了した。


 これで俺は四属性と二対の魔法を習得した。闇の力に置いては一度も使っていないが、これはあくまでも精神力が重要となる力の為、特に闇魔法の訓練は必要ない。


 あと残るは特殊魔法か……。これが終われば早いがすぐに上級魔法科への昇格試験を受ける権利が貰える。

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