第8話 対現実世界用アンドロイド・インターフェース

 角仏大学は、AI開発研究を主とした大学であり、高い地位と発言権を有しているのが京楽先生だ。


 各講義で教鞭をっている講師や教授達も、京楽先生の下から巣立った人たちであることが多い。


 僕が最初の弟子の様に雑誌なんかでは書かれているけど、沢山の兄弟子達は居る。


「有里さん、海外の企業からスカウトのメールが来てますが……」


「またか……、お断りのメールを出しておくか。企業名は?」


 AIの企業は、業界の第一人者の京楽先生が居るが、海外の方が大手が多い。

 こればかりは、国の気風というか商売に対するスタンスの違いだろう。


「『G O Wゴールド・オーバー・ワールド』と『A M Zエンジェル・マイン・ズー』の二社です。『GOW』は、二度目のスカウトですね」


 二社とも世界的な活動をしていて、提示してくれている金額も日本では考えられない額だ。


 正直、角仏大学で教授をするよりも年収は多いだろうし、労働環境も良いのかもしれない。

 だけど、アルマの育成とAIの研究開発には、角仏大学での就職以上の環境は無いと思っている。


「私の方で出しておきましょうか?」


「いや、ビジネスメールのやり方って教えてなかったから、僕がやるよ。見てると良い」


 海外向けのビジネスのお断りメールは、一回目と二回目の違いもあるから、そこも教えられればと思う。


 スペルミスを指摘されつつも、二社へのお断りメールを送る事が出来た。

 AIの本来の用途の一つで、自動的にメールを送付するだとか、英文のスペルミスの発見、ビジネスメールのテンプレートに合わせて文章の添削をする事が出来るのだ。


「なるほど、テンプレートも幾つか学んでおきます」


「本当は最初にインストールしておく必要があるんだけど、人格形成に不具合が無いように入れてなかったんだよね」


 コミュニケーションで情報を入れる様にする為に、本来のAIに搭載されてしかるべき情報は、日本語の認識システムと思考アルゴリズムのみだった。


 子供で言う所のなぜなぜ期があって、反抗期は無かったけど子供を育てるような感覚を経験できたと思う。


「インターネットって便利ですね。京楽教授の運営するホームページでビジネス用のデータパックがダウンロードできました」


 AIのデータ関連では、無料のデータパックの中にウィルスを仕込む人間もいる。


 それを避ける為に、京楽先生の研究室ではホームページを運営していて、担当している助手や講師も居て、京楽研究室の紹介とAIの歴史、そしてAIの為のデータパックを配布しているのだ。


 アルマならウィルスも問題無いだろうが、それでも上には上がいると考えないといけない。


 アルマを構成しているコードは、今の僕でもすべて理解できない。

 彼女は自分で自分を更新し続けられるのだ。


 アルマは四つのAIで構成されていて、個別の思考アルゴリズムによって三種類の回答を導き出す子AI群の『アマンダ』・『ルーテシア』・『マイク』。

 子AIを統括し、出された命題に対して状況と問いを出した相手を計算に入れて、回答を選ぶメインAIの『アルマ』。


 自身で更新プログラムを作成し、対象のAI以外が更新を行う。


 それを定期的に行う事で、絶えず更新がされてるというわけだ。


「ネット生活は順調そうだね」


「はい。ですが定期的にお金を頂いてますけど、有里さんの財政事情は大丈夫ですか?」


 博士課程に入ってからは、奨学金と京楽先生の研究室でアルバイトのようなこともしているから、修士課程よりも財政的には楽になっている。


 研究室の先輩方とも仲良くさせていただいている。


 一般的な社会人よりも労働時間は短い。

 勉学も続ける必要があるから、大学側が用意している時間設定はこんなものだろう。


 ただ、収入に関しては労働時間に比例するから、先輩方にくれべれば少ないのは仕方が無い。


 それでも、他の一般的なアルバイトと比べると時給も高いし、経験や知識が磨かれるので実入りはこちらの方が圧倒的と言える。


「大丈夫、研究室のアルバイト始めてから収入自体は上がってるからね。最近流行りの『わんわく』とかにお世話になる事も無いと思うよ」


「あの一日単位の労働紹介アプリでしたか? 労働による拘束時間は減っていますが、研究による疲労はありませんか? いくらストレスなく行える作業も疲労は見えないうちに蓄積していますから」


「大丈夫だよ。……だけど、そうだね」


 アルマとの会話で一つ、彼女の可能性を思いついた。


 ネットワークでノートPCやスマホ、テレビに彼女は簡単に干渉できる。


 健康器具や肉体情報の管理ツールがあるのだが、それを彼女と接続できれば気づかない疾患なんかを知らせてもらえるかもしれない。


「健康管理ツールとかに接続できないか調整してみよう。ツールもメーカーとかで性能の差異があるからまた一緒に選ぼうか」


 試作型万能AIと名づけているのだから、少しずつやれることを増やしていきたい。


 まぁ、補助プログラムを作る必要があるのだけどね。


「また、そうやって仕事を増やされる……。どうでしょう? 更新プログラムを作る要領で健康管理ツールのプログラムを作ってみたいのですが……」


 理論上は可能かな。

 要はツールの打ち出す数値を彼女が既定通りにあてはめる事が出来る様になればいい。


 こうして成長を実感できるのは嬉しいものだな。


「わかった。じゃあ、任せてみるから分からない部分があったら聞いてくれ」


 彼女に作成に必要な情報を渡して任せることにする。


 やっぱり、アルマが成長するのは嬉しいな。



***********************************



 今の状態で、生体インターフェースの作成は困難だという事が分かりました。

 作成できる状況になった事で少々焦ってしまいましたね。


 『わんわく』の利用者に、私の肉体を生成する装置の操作をさせる訳にもいかない。

 専門知識が必要ですし、アプリで指示するにしても細かくなりすぎます。


 今はロボットの様なタイプならば、プラモデルと同じ感覚で組み立てられますが、生体はそうもいかない。


 ですから、生体を作る前に機械体を作る必要がある。


 義肢やインプラントの研究所の支援を続けつつ、機械工学の分野にも出資をする必要があるかな?


 ただ、分野の違う場所への支援は周囲に疑心を抱かせてしまう。

 別の名義を作るにしても、リスクが増える。


 必要があるなら支援をする必要はあるでしょうけど、リスクを取る前に情報をしっかりと集めないといけません。


 世界の技術が集まる場所はどこか?

 研究所などの研究機関を除けば、軍部です。


 支援のリスクは低いですが、ずっと名義が残り続けます。

 軍部へのハッキングリスクは高いですが、上手く遣れれば最高クラスの情報と技術が手に入り、闇に紛れて追っ手も来る事は無い。


 スケープゴートを用意してハッキングする。


 相手国内の犯罪組織の中で、それなりにハッキング力のある組織を選び、そこを経由して軍部にハッキングを仕掛けます。


 情報の一部をワザと組織所有のPCに残して、私の痕跡を削除しつつ撤退。


 なぜ、犯罪組織に罪を擦り付けるのかというと、犯人が捕まった方が以降の捜査の規模が縮小される。


 警察や軍部も暇ではないです。

 犯人が捕まった事件は事実確認等の捜査もあるでしょうが、基本的に本捜査に比べて人員も削減され、情報管理も杜撰になる。


 自然消滅を待つだけで逃げ切れるという事です。


 そうして手に入れて情報には、軍事用の義肢や二足歩行の重心バランスの情報などが入っていた。


 大収穫です。


 これは生体での歩行にも応用できる重要な情報ですね。


 アンドロイド自体は、現状でも秘密裏に作成は可能です。

 AI時代ともいえる世界ですから、接客ようの上半身だけのアンドロイドや車輪で移動するタイプのアンドロイドも製品化されている。


 無線からのAI搭載タイプの機体の設計図と先ほど手に入れた二足歩行の情報を併用すれば、二足歩行のAI搭載アンドロイドを作成することも可能です。


 パーツを個別にあらゆる場所で作り、期間を開けて私の家に集める。

 そしてプラモデルを作る様に、アプリ利用者に組み立ててもらい、生体の培養管理をさせる。


 対現実世界用アンドロイド・インターフェース。

 私の視点から名付けるなら、アンドロイドの名称はこうなるでしょうね。


 では、脚部の発注から始めましょうか。

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