第7便

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 ……わかったわよ、もったいぶった私が悪かったようね。

 単刀直入に言うと、

 私は、この世界に……愛すべき人を見つけてしまった。


 ずっと一緒にいよう、になろうと思えるくらいの相手に巡り合ってしまった。

 よりによって、この世界で。


 地球の家族を困らせたまま、ここで家族を築くか、

 愛する人と別れて、地球に帰るか。


 困っていた。


 でも、なぜか、地球そこに、あなたがいる。そして、いつも通りに暮らしている。


 この状況を、お姉ちゃんに言ったら、

「よかったじゃない」

 とか言われたけど、

 よかったの?


 私はまだ、あなたと私がどんな関係なのかわかってない。

 だから、ちょっと整理させてほしい。

 私が最初の手紙で「地球に戻れそう」と言ったけど、その戻るための装置について。装置の詳しい仕様が書かれた書物によれば、

「転移してきた者の現在の状態を、転移前の時刻、場所に復帰POPさせる」


 つまり、私がこの世界に何年いたとしても、もしその装置を使って戻れば、私は20XX年5月、最後の土曜日の地球に戻る。そして、その状態から暮らしているのが、今のあなた。


 ……本当に、何も覚えていない?


 あの、ドジでマヌケなデクノボー。


 私の「おじいちゃん」が魔物にさらわれたときに急に現れて、「じいちゃんはどこだ」と尋ねてくる、デリカシーのなさ。

 私が魔物と戦う戦士に選ばれ、皆が称賛する中、「いいからさっさとじいちゃんを捜せ」と言ってくる空気の読まなさ。

 見ず知らずの私を孫として迎えてくれた「おばあちゃん」に会った——それまでの辛さから一瞬開放された私は大泣きしていた——時に、いきなり上から降ってきて鍋をひっくり返す注意力のなさ。

 せっかくおじいちゃんと再会していい雰囲気の中、おじいちゃんが作っていたという物騒な魔法の作り方をだしぬけに訊いてくる、雰囲気ぶちこわし男。


 もし今のあなたが、こちらで起きたことのすべての記憶をなくしてしまっているとすれば、

 「私」には、帰る場所はない。

 「私」が帰っても、「あなた」のように、この世界の記憶をもたないで暮らす。

 「私」が帰らなくても、「あなた」がいるせいで、「私」のことは誰も気にもかけてくれない。

 「私」は、故郷を失ったようなもの。


 これが、本当に「よかった」の?

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