名残り

椰子草 奈那史

名残り

部室を出たところで、後輩の美紅みくと鉢合わせになった。

「あ、麻耶まや部長。もう由佳ゆか先輩との打ち合わせは終わったんですか?」

「ええ。ごめんね、遅くきてもらって。もう終わったから中で準備始めておいて」

「はーい」

美紅はいつものように元気に部室のドアを開けた。

しかし、何かに気づいたように私の肩のあたりをのぞき込む。

「部長、首のところにがついてますよ」

「ゴミ? どこに」

首筋を触ってみてもそんな感触はない。

すれ違いざまに、美紅がそっとつぶやいた。

「部長は跡が残りやすいんだから気をつけないと」

鏡を取り出してみると、首筋には唇の形をした赤い皮下出血が残っていた。

「失礼しまーす」

笑を含んで美紅が部室へ入っていった。

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名残り 椰子草 奈那史 @yashikusa

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