第15話 言葉の刃が鋭すぎて、刺さったまま抜けない。

「おい人間! 助けてくれ!」


 いつぞやと同じフレーズで、クロスケが助けを求めてくる。

「どうしたんだよ、そんなに焦って」

「追われてるんだ! めちゃくちゃ怖い人間のメスに!」


 追われるって……篠田さんそんなにアグレッシブだったっけ?


「きゃー! 待ってネコちゃーん☆」


 そう思っていると、砂糖を煮詰めたみたいな甘ったるい声が聞こえてきた。


「うわっ、こっちまで来やがった。俺は隠れるからうまい事はぐらかしてくれ!」

「お、おいっ!」


 クロスケは塀を飛び越えて、人の庭に隠れてしまった。


「あれぇ、どこ行っちゃったんだろー?」


 それとほぼ同時に、チャラチャラした外見の女子生徒が角を曲がってきた。ええと、なんだっけ、見覚えがあるような。


「……あ、陰キャじゃん、黒猫ここら辺に居たと思うんだけど、どこ行ったか知らない?」

「え、あ……し、知らない……です……」


 思い出した。同じクラスの天ヶ崎さんだ。なんというか、クラスの中心人物で、俺からは最も縁遠い人、そう認識している。


「ふーん、ま、いっか……見掛けたら教えてよね」

「え、えっと、猫、好きなんですか?」


 しかし、あの甘ったるい声が天ヶ崎さんだとは到底思えなかった。


「超好き。でも猫をダシに寄ってくる奴は嫌い」

「ぐぅっ……」


 言葉が俺の胸に刺さる。


 そういう下心があるわけじゃないが、篠田さんとは実質、猫繋がりで仲良くなったわけで、ダシに使ったと言えなくも……


「じゃね、陰キャ」


 天ヶ崎さんがどこかへ行った後も、俺は刺さった刃を抜けずに、立ち尽くしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る