第9話 基本的に俺は目を見て話せない。

「師匠? こんなところで奇遇だな」

「えっ!? あっ……し、篠田さん、どうも」


 あの後ベンチに腰掛けて、クロスケを撫でてあげていると、篠田さんが声を掛けてくれた。


「あ、風紀委員の仕事は、どうしたの」

「もう終わった。帰りに制服姿のままゲームセンターなどに行く輩がいないか探していたが、まさか公園で猫を撫でている生徒がいるとは」


 きびきびとした口調で、篠田さんは話すけれど、その視線はクロスケに釘付けだった。


「あっ校則違反じゃ、なければだけど、篠田さんも撫でる?」


 撫でたいのかな? そう思って、俺はベンチにスペースを開けた。


「おい、また俺の意思を無視して――うーんゴロゴロ……」

「まあまあ、撫でられ税だよ、撫でられ税」

「なんだよそれ……」


 クロスケが抗議するけど、俺が撫でてあげるとゴロゴロと喉を鳴らして脱力した。


「本当か! では、遠慮なく」


 篠田さんは待ってましたとばかりに腰掛けて、クロスケの背中をさする。


「ふん……姉ちゃんも、結構うまくなってきたじゃねえか」

「あ、上手になった、って言ってるね」


 クロスケの言葉を翻訳して、篠田さんに伝えてあげる。硬い表情だった篠田さんも、心なしか嬉しそうに見えた。


「……ふぅ、ありがとう」

「あ、もういいの?」

「ああ、ところで、少し頼まれて欲しいことがあるんだ」


 篠田さんが俺に頼み事? なんだろう。


「次の休み……猫カフェという所に行ってみたいのだが、一人で行くのは勇気が必要でな」

「猫カフェ……」


 聞いたことがある。店にいながら猫と戯れることが出来る、夢のようなお店。


「私には、あまり似合わないだろう? だから一人でいくのは……」

「あ、うん……い、いいよ、行こうか」


 これはデートという奴では!?


 ……とはならなかった、どうせこんな意気地のない俺を、好きになってくれる女性なんて、そういないだろうしな。


 変に期待してめかしこんだ結果、篠田さんにドン引きされるのがオチだ。


「そうか、ありがとう!」


 篠田さんがまっすぐに僕を見る。その圧はすさまじくて、俺は目を合わせることが出来なかった。

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