~死神ステーシアと不気味なアイツ~


「それは······ずっと前だよ、小学生の頃だからもう四年になるかな?」

 ステーシアの話によると、その頃、棚橋の家には新しい母親がやってきた。

 無関心な父親とは違うが、棚橋はどうしても馴染むことが出来なくて、その頃から死にたいと思うようになった。


「何とか、考え直してくれないかとは思ったんだけどね」とステーシアは寂しそうに呟いた。


 なんだよ!その表情は?

 命を奪うのが仕事じゃないのか?


「で······執行するのはいつなんだ、いつ棚橋の命を奪うつもりなんだ?」


「卒業式が終わってからにしたいんだって、ミッチーにはさぁ、好きな男の子がいてね、せめて一緒に卒業してからその思い出を持って行きたいんだってさ」


 卒業式といえば、あとひと月だ。


「棚橋が好きな人って誰なんだ?」

「そんなの私から言えるわけないでしょ、女同士の約束なんだから」


 まったく女心はわからない。


「それで、棚橋は今どうしてる?この二日は学校にも風邪をひいてると連絡だけは入っているけど」


 学校には母親から連絡が入っていた。

 とりあえず、今日は家庭訪問に行こうと思った。


 本当ならば、この死神ステーシアと対峙して勝つことで救うのだが、今回はそれだけでは済む話ではなさそうだ。


 放課後、愛用のボロ自転車に乗ってオレは棚橋の家に向かった。


 いつもと違うのは、後部にステーシアが乗っているということだ。

 もちろん二人乗りは良くない!

 もしも生徒が二人乗りしていたら教師としては許すことは出来ない。


 だが、オレは人間界に生きているが、ステーシアの姿は棚橋とオレ以外には見えない。

 きっとセーフだろう。


 しかし、後ろからフローラル系の甘い香りがして、ドキドキしてしまう。


「この先を左」

 耳元でステーシアの少しハスキーな声でナビゲーションしてくれる。

(くぅ~たまんねぇぞ!)


「おぅ」

 心臓の音はドキドキしているがきっとステーシアには気付かれてないはずだ。


 自転車のスピードを落としながら、左側へ曲がった。


 古い日本家屋の表札に棚橋と書いていることを確認して、チャイムを鳴らした。


「はい」


「立花中学校で美香さんのクラスの担任をしております武田と申します」

 一呼吸置いて

「少しお待ちください、今参ります」と声がした。


 ほんの数分で、エプロンをかけた母親がやってきた。

 三年になってから三者懇談で生徒の親とは会っている。


「美智さんは大丈夫でしょうか?これは休んでいる間のプリントです」


 オレが出した学校からの知らせや宿題・他の教科のプリント類を母親に渡した。


「あっ!武田先生」

 後ろからパジャマ姿の棚橋が顔を出した。

 でも、オレの横にいるステーシアを見てビックリしているようだった。


 応接室に招かれたオレがフカフカのソファーで待っていると、普段着に着替えた棚橋がやって来た。


 オレの隣にいるステーシアの方を向いた棚橋はオレにではなく彼女ステーシアに声をかけた。


「どうして?先生のことを知ってるの?」


「ミッチーごめんなさい、バレちゃったみたいなの」


 二人が話しているのを聞いていると、分かったことがある。


 棚橋が好きだったのは他でもない、ついこの間ヤンキー死神から救ったクラスメイトだった。


 イジメに会っていたのは彼で、その姿を見るのが辛くなった。

 小学生の時からずっと好きだったのだろう。

 西田はもうイジメられてはいないし、今は元気で学校に通っている。

 母親も見る限りでは優しそうに見える。


 でも一度死を選ぶ覚悟をした者は、ソレに支配されてしまう。


 俺が今回闘うのはステーシアではないのだと今になって気がついた、どうしてかって?

 それは棚橋の後ろに真っ黒な物体が現れたからだった。

(これはヤバいことになったぞ)



 ※続きます


 


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三年A組死神先生 あいる @chiaki_1116

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