第9話 大国主命 凱旋する

 ヒロは少女抱きかかえたまま洞窟を出た。


 すでに、空は明るくなりかけていた。


 そこでは、カイが何十人もの男たちを対峙していた。男たちは遠巻きに矢を射かけ、カイは魔法陣で防ぐことを繰り返している。


『カイ、何してるの?』

 念話を使って、兎にも同時にわかるようにする。

 カイはうんざりした顔で言う。

『もう、あいつらめんどくさい!何とかして!』


 すると、ヒロに抱きかかえられた少女が言った。

『あいつらを何とかすればいいの?やってみる!』

 空中に無数の水玉が沸き起こった。それらが、男たちに礫となって飛んでいく。

 ある程度ダメージになっているようだが・・・


 それを見て、ヒロが言った。

『じゃあ、こんなのはどう?』

 周囲の気温が一気に下がった。水玉が・・氷の塊となる。

『すごーい!』

 少女は嬉しそうに、それらを男どもに飛ばす。今度はかなりのダメージになったようだ。頭に直撃した何人もの男たちが倒れていく。

『今度はこんなのでどう?』

 気温が一気に上がり、水玉から湯気が出る。熱湯だ。

 熱湯のつぶてを受けた男たちは悲鳴を上げて逃げ出した。



 朝日の中、ヒロの腕の中でウンディーヌが言った。

『私、あなたと一緒に行くことにするわ!ねえヒロ。私とあなたが一緒なら何でもできる気がするの!!』

 ヒロの首に回した手に力を籠め、ヒロの頬にキスをした。


「あ~!あなた、後からきて何してるの!」

 兎が少女に文句を言うと・・・少女は、ガッ!と兎の顔をわしづかみにして言った。

『あら、ヒロは私の物よ。誰にも渡さないわ』

 兎は見た。その少女の瞳は瞳孔がなく、まるで深海をのぞき込むよう・・本能的に恐怖を覚える。

「ひい・・・カイ君助けて!」

 兎はカイの背後に隠れ、ガタガタと震えた。

「あの子は精霊だよ。敵に回さないほうが良いよ」


カイは、やれやれといった顔をして言った。

「ま、目的も果たしたし・・もう帰ろうよ!」


 帰り道、カイが言った。


「帰ったら、風呂に入りたいなぁ」

『水は任せて!』

『じゃあ、それを湯にするよ』

「風呂って何ですか?」

「ああ・・教えてあげるよ、いろいろね」


 風呂・建築・医療・農業・料理など

 彼らはこの国に様々な知識を伝え、伝説として語り継がれることになる。


 ヒロ。大国主命として。

 カイ。少彦名命として。

 ウンディーヌ。彼女は水の女神田心姫命として。しかしながら、どちらかというと嫉妬深の女神、須勢理毘売命すせりびめのみこととして伝えられる。



 彼ら3人、末永く共に歩んでいく仲間となった。

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